〈コラム〉米国の勤労意識と日系企業の哲学のずれ

0

人手不足(17)

「HR人事マネジメント Q&A」第29回
HRMパートナーズ社 人事労務管理コンサルタント
社長 上田 宗朗

ここ数年突出した問題であった企業の人手不足問題解消への一助たらんと前月回=8月26日号掲載=まで16カ月(16回)に亘り「人手不足」をテーマに私なりにアイデアや解決策などを発し続けてきました。おこがましくもこれほど長期に及んだのは皆さんに発信する以外にライフワークの一環として絶えず自問し続けてきた課題でもあった為です。

私が渡米してきたのが三十有余年前、それ以前の日本から出向してきた駐在員や現地日本人ら先達の高潔な振る舞いや道徳観、また善良なる日系企業群のおかげで私自身(実際とは別に)周囲に良く見られたり良くして貰ったりとかなりの恩恵を受けてきました。それ故に「ジャパン・アズ・ナンバーワン」とかつて言わしめたほどの隆盛、まぁそこまでは行かずとも日系企業にはこれからも引き続き頑張って貰いたいとの想いは強いです。

しかしそんな変わらぬ想いを抱きつつ米国内日系企業のどこを訪ねても最近は総じて人材難で困っておられ、トップの方々から聞こえて来るのは怨嗟に似た嘆き節。もちろん人手不足や良い候補者が見つからないなどの問題は以前もいや古くから連綿とあるものですが、陰に陽に日系企業を応援している身としてここは恩返しする番とばかり今回の人手不足解決に向けた妙案あるいは人事政策あるいは方向性は如何に?と考察し続けたわけです。

しかしそんな中、ふと今日の動きを見るに例えば最新ニュース記事にて「2023年の昇給予算は20年ぶりの高水準、即ち過去20年間で最も高い水準に達した」「雇用主は差し迫った経済不安にもかかわらず給与に関してかなり積極的な姿勢を維持する予定」「米フォード・モーター社、工員8000人の賃上げを発表。時給で4・33ドル、年換算で9000ドルの引き上げ」、更にこれら動きに拍車をかけるように「全米自動車労働組合、週4日32時間労働を推進。米国はおろか世界中が注目」とのニュースまでもが出てきています。

これらダイナミズムを知るに連れ、かなり踏み込んで考察するに、本来、日系企業が持つ良い部分である雇用維持や勤勉性など重視する哲学というか世界観あるいは方向性といったものが今の米国トレンドからずれてきているのではないか?と思えてきた由。即ち今回の問題はこれまでとは異質なものに感じるとの意。ここに住んでいれば誰もが感じるように、働かずしてお金を得ることに対して人々が罪悪感を持ってるようには見えず、実際のところ額に汗して働いて得たお金でなければ尊くないとの古来よりの考え方もまた逆に重たく思えるほど。そこにハイパーインフレまでもが合わさって、「今は賃金は上がって当然」「本来はもっと上がるべき」と皆が当たり前のように思っている。話は逸れるが食べ物をテイクアウトする時でさえチップを払うのが当然視されるようにもなった。何だか急に常識が、と言うか人々の意識までも大きく変化したように思えてなりません。

次回はこのトレンドを生んでいるダイナミズムを人事的側面から詳らかにしていく予定です。

(次回は10月28日号掲載)

上田 宗朗

〈執筆者プロフィル〉うえだ・むねろう  富山県出身で拓殖大学政経学部卒。1988年に渡米後、すぐに人事業界に身を置き、99年初めより同社に在籍。これまで、米国ならびに日本の各地の商工会等で講演やセミナーを数多く行いつつ、米国中の日系企業に対しても人事・労務に絡んだ各種トレーニングの講師を務める。また各地の日系媒体にも記事を多く執筆する米国人事労務管理のエキスパート。

過去の一覧

Share.