〈コラム〉米国世情と日系企業人事の隔たり

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人手不足(18)

「HR人事マネジメント Q&A」第30回
HRMパートナーズ社 人事労務管理コンサルタント
社長 上田 宗朗

前回=9月23日号掲載=の記事では日系企業が人手不足に陥る原因として、彼等が持つ雇用維持方針や勤勉性重視の哲学、言い換えるならそれら企業倫理観はきっと善いにもかかわらず今の米国トレンドからずれてきたのではないかと疑問を呈しました。もちろん以前からそれらの違いは確かに存在したものの、本来なら米国で企業人事を行うことにおいて日本企業に好印象を与える筈がそのような良心が通用せず、その世界観のガラパゴス化が顕著になって来たのではないかと

これは何も事の正否や善悪を問うているのではなく、あくまでも人手不足に陥る要因の一つとして提起してみたのであり、善良なる企業倫理観が逆に足枷となってしまうことが米国において一過性なものなのか持続してしまうものなのかは知り得ませんし、それより何より日系企業の倫理観が通用しないなどということ自体を私自らが真っ向否定したいほどです。現に80年代の日本企業米国進出ラッシュ時も今と同じように、「ビジネスの世界はドライであり日本型温情政策は効率重視利益追求の点からみれば管理の足枷となる」と言う者がいたかと思いきや、「いや、家族的経営や良心的経営、労使協調体制はむしろ利益至上主義を上回って結果として良い点を会社にもたらす」と賛美する者が現れるなど真逆の意見が交わされたことがありました。(結局この時は1985年のプラザ合意から円高にそして日本経済がバブル崩壊へと至ったこともあり、米国の経済評論家やエコノミストたちからは憐憫の情からなのかそれとも皮肉を込めた故なのか、「いいとこ取り」の米国型日本型のハイブリッド式人事が良いなど、最後は日本式経営に花を持たせて貰って幕を閉じた感あり)

今はどうでしょう。これまで我々は「勤勉は良いこと」と教えられ事実肌で感じてもきました。が、少なくても日本ではそれに乗っかって企業が従業員に長時間労働を強いてきたとみなされても仕方ない面がありますし、上司や同僚が退社しないのに自分だけ先に退社するのは気が引ける類の無言の同調圧力があったことは言わずもがなです。無論ここ米国にも日本のそれよりも遥かに猛烈に働く人は大勢いますが、むしろ日本(人)の尊い勤勉性が米国(人)には効率を落とし利益逸失の要因と捉えられていることは否定できません。

前回号の末尾にて、「次回はこのトレンドを生んでいるダイナミズムを人事的側面から詳らかにしていく」と予告したにもかかわらず今回も前置きに終始してしまいました。次回に続きます。

(次回は1125日号掲載)

上田 宗朗

〈執筆者プロフィル〉うえだ・むねろう  富山県出身で拓殖大学政経学部卒。1988年に渡米後、すぐに人事業界に身を置き、99年初めより同社に在籍。これまで、米国ならびに日本の各地の商工会等で講演やセミナーを数多く行いつつ、米国中の日系企業に対しても人事・労務に絡んだ各種トレーニングの講師を務める。また各地の日系媒体にも記事を多く執筆する米国人事労務管理のエキスパート。

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