〈コラム〉米国世情と日系企業人事の隔たり(2)

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人手不足(19)

「HR人事マネジメント Q&A」第31回
HRMパートナーズ社 人事労務管理コンサルタント
社長 上田 宗朗

前々回=9月23日号掲載=および前回=10月28日号掲載=の記事で、転職トレンドが落ち着いてきたにもかかわらず日系企業が他の多くの企業と同じまたはそれ以上に人手不足に陥っているのは、誇れる筈の善良なる企業倫理観や勤勉的メンタリティーを持つが故に逆に空回りしているためではないかと少々踏み込んだ自説を述べました。もとより待遇・勤務環境・上司同僚などの良し悪しや会社または自身の職の将来性などが本筋であることは言わずもがなですが、これら本筋だけが原因ならば日系企業が米国進出以来、今日に至るまでに多くの真っ当な人材が順当に集まって来ていたところから急に今日のような事態に転じたことの説明がつきません。

今のこのような日系企業の空回りトレンドを生んでしまっている根幹は1963年にできた連邦法The Equal Pay Actが案外大本なのかもしれません。同法を訳すなら「同一賃金法」とも「給与平等法」とも呼べますが、成立した背景は先の大戦から朝鮮戦争そしてベトナム戦争と幾多の戦争で多くの男性が職場を離れて兵役に就き、それまで家を守っていた女性が男性に代わり(外の)労働に大量に加わったことにあります。そして、現在ほど差別に厳しくなかった60年代まで女性は男性が貰う賃金の7割程度しか貰えずにおり、それを是正するため同様の職務に同様の条件下で就く男女の間で著しい給与格差があることを違法とする法律を作ろうとなったのが事の経緯です。

では現在はどうなのか? 実は男女間の給与格差はそれほど解消されておらず人種別でもまたかなりの給与格差が存在します。2022年調べでは、米国男性が稼ぐ1ドルにつき米国女性の収入は82セントと出ており、さらに細かく言えば、白人男性比で、黒人女性の収入は70%、ヒスパニック系女性の収入は65%。白人女性の収入は83%、そして唯一アジア人女性だけが93%で白人男性の給与値に最も近かったと出ています。

このような実態の下、連邦政府および州政府それに各地方自治体に至るまでが世の中の動きに連動して格差解消に躍起になっており、次々に出される新たな法律にその思いが強く出ているのですが、それらの大半がThe Equal Pay Actそのものの解釈を拡大したか、派生して設けられたか、あるいは成立精神を受け継いでできたか、ばかりなのです。

尚、給与格差を是正することにおいてはインフレ且つ物価高な現状と相まって給与値を下に合わせるのではなく上に合わせざるを得ないことから、米国自体が成熟した国であるにもかかわらず給与レベルが他の先進国以上の早いスピードで上がっています。肝要なことは、皆さんから見てそれほどの働きをしていないと思われる人たちの給与や報酬がこのような背景により上がって行っている由。これこそが「働かざる者食うべからず」と考える我々と「労働は罰としての苦役」と捉える(のかもしれない)大勢が占める概念との違いと言えるでしょう。

(次回は12月16日号掲載)

上田 宗朗

〈執筆者プロフィル〉うえだ・むねろう  富山県出身で拓殖大学政経学部卒。1988年に渡米後、すぐに人事業界に身を置き、99年初めより同社に在籍。これまで、米国ならびに日本の各地の商工会等で講演やセミナーを数多く行いつつ、米国中の日系企業に対しても人事・労務に絡んだ各種トレーニングの講師を務める。また各地の日系媒体にも記事を多く執筆する米国人事労務管理のエキスパート。

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