〈コラム〉米国世情と日系企業人事の隔たり(5)

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人手不足(22)

「HR人事マネジメント Q&A」第34回
HRMパートナーズ社 人事労務管理コンサルタント
社長 上田 宗朗

前回2月24日号掲載の当コラムでは「人手不足」を解く鍵であるThe Equal Pay Actに注目。同法から派生した或いは同法の精神に基づいて法制化されたSalary History BansおよびPay Transparency Actを紹介し、合わせて前者は「雇用主に対し求職者の給与履歴を訊ねることを禁止する法律」であり、後者は「雇用主に対し募集する仕事の給与額を前以って公表させる法律」だとお伝えしました。

お察しされるが如く、応募してきた者に対し「以前に働いていたところでいくら給料を得ていたか?」「現雇用先企業でもらっている給料額は?」と訊ね今から雇おうとする募集元企業が求職者の貰っている額を知れば、雇う方は自ずとそれに少し上乗せした額を先ずは提示することでしょう。そして低額の求職者には現給与額に少し上乗せした低額を、高額を得ていた求職者には現給与額に少なくない金額を上乗せした高額をオファーしていくことで給与額がますます開いていってしまうことになりますが、この事こそがこれまで半世紀に亘って繰り返されてきた問題行為だと捉えられているのです。そしてそれ故に雇う側には予め給与額を開示させ、求職者に対しては現給与額を含めた給与履歴を問うことを禁じるようになってきたのです。

翻って、採用後に同じ(または類似の)職務に就きつつも各々の職務遂行能力度合いに差が生まれ、そこから従業員達の給与額に開きが出てくることは多くの企業で起こり得ます。能力差が理由で彼我の給与額が開いていくことは差別行為とはならないものの、事実が採用時から既に他者より低い額をオファーされての就労開始であれば誰彼にかかわらず働きたいとの意欲が失せるのが必定であり、そして今後は差別行為と見做されることにもなるでしょう。

では雇用主側である企業は如何なる措置を執るべきか或いは講じておくべきか? 簡潔にいえば自社のそれぞれの職務(ジョブポジション)に対し前以って給与額を定めておくこと、つまりは上限値・下限値を備えた給与レンジ…それも誰もがその給与レンジ幅や価格帯を論理的で妥当と考える…を設定しておくことなのです。

その為には自社が持つジョブポジションについては一定間隔で市場給与調査を行い、常に競争力ある自社の給与レンジを確立しておくべきです。ちなみに競争力とは単に金銭的多寡を指すのではなく、それをも含めた上でのいわゆる自社の魅力や売りどころ、それらを知り総合的にみた自社の競争力を把握しておくべきでしょう。そして、その給与値幅や給与帯の設定の根拠および妥当性に自信がありさえするなら募集するジョブポジションの給与値を事前に提示・公表することに不安を持たない筈です。

(次回は4月27日号掲載)

上田 宗朗

〈執筆者プロフィル〉うえだ・むねろう  富山県出身で拓殖大学政経学部卒。1988年に渡米後、すぐに人事業界に身を置き、99年初めより同社に在籍。これまで、米国ならびに日本の各地の商工会等で講演やセミナーを数多く行いつつ、米国中の日系企業に対しても人事・労務に絡んだ各種トレーニングの講師を務める。また各地の日系媒体にも記事を多く執筆する米国人事労務管理のエキスパート。

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