人手不足(33)
「HR人事マネジメント Q&A」第45回
HRMパートナーズ社 人事労務管理コンサルタント
社長 上田 宗朗
前回=1月25日号掲載=の記事にて「Pay Transparency Act(賃金透明法)を施行する州では求人募集要項に報酬内容の記載を義務付けたことから企業間の応募者数の多寡がはっきり現れることになる」と締めくくりました。つまり人気ポジションか不人気ポジションかを求職者がきっちり線引きしてしまう為、これまで以上に不人気ポジションへの昇給圧力が高まるだろうことを説いたのでした。
即ち、これまでの求人情報あるいは募集情報だと例えば「給与は4万ドルから7万ドルの間で経験と能力次第」などと給与レンジをあまりに広くざっくり書くか或いは敢えて給与額を無記載にしたあと面接時に報酬額を決めていたのが今後はそうはいかなくなるということです。また給与額に同じくボーナスやインセンティブおよびベネフィットなど追加報酬や福利厚生も「出るか出ないかは業績次第・本人のやる気次第」などの曖昧な売り文句も慎まねばならなくなってきたということです。ならば人材紹介会社を通して募集すれば良いかと考えるでしょうが、そのような第三者を介した募集に際しても同法は適用対象になります。
同法の細かなルールや適用範囲は会社規模や地域により異なりはしますが本年初めからイリノイ州とミネソタ州も加わって既に多くの州(および幾つかの自治体)が施行しており、また別の数州も本年後半からの施行開始を検討する中、この米国全域での賃金透明法導入の動きは止まらないものと考えます。
同法はまた外に向けての求人募集に限らず社内にも影響を及ぼします。何故なら社外募集に限らずジョブポスティングと呼ばれる社内募集時にも給与額を開示しなければならないとする州が多いからであり、特筆すべきはカリフォルニア州の「募集時に限らず従業員が自身のレンジを問い合わせてきた場合も開示する必要あり」と個々の従業員向けに給与レンジの開示義務すら課している点です。
但し悲観することはありません。自社内で予め「魅力的な」給与額を確立しておけばよく、しかし一方で出張経費や諸経費を抑え過ぎるなどして従業員のやる気を削がないようにも努めねばなりません。もし他と比べて遜色ない報酬を提供するのが難しいなら、他社にはない別の有用なところをアピールしましょう。つまりはこれを機に、たとえ小規模の会社であろうとこの昇給圧力問題に適切な施策を打ち、会社自体を魅力的に思わせるよう転換させるべき時期なのです。
(次回は3月22日号掲載)
〈執筆者プロフィル〉うえだ・むねろう 富山県出身で拓殖大学政経学部卒。1988年に渡米後、すぐに人事業界に身を置き、99年初めより同社に在籍。これまで、米国ならびに日本の各地の商工会等で講演やセミナーを数多く行いつつ、米国中の日系企業に対しても人事・労務に絡んだ各種トレーニングの講師を務める。また各地の日系媒体にも記事を多く執筆する米国人事労務管理のエキスパート。