〈コラム〉なんとかしたい選挙の在り方

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倫理研究所理事​長・丸山敏秋「風のゆくえ」 第137回

去る7月10日に行われた参議院選挙は、与党146議席、野党102議席と、予想通りに与党の圧勝で終わった。

自民が単独で改選過半数を超える議席を獲得し、憲法改正に前向きな自民・公明・維新・国民の4党で3分の2議席を超えた。また比例の獲得議席で維新が立憲を上回る結果にもなった。

投票率は52.05%と前回より3.25ポイント上がったものの、それでも有権者の半分ほどで、過去4番目の低さである。もしも投票2日前に安倍晋三元首相の銃撃事件が発生しなければ、投票率はもっと低かったであろう。国民の政治不信、政治離れはすでに慢性化している。

ふり返ると、今回の参議院選挙も恥ずかしく腹立たしくなる国政選挙だった。最悪の手本を示したのが岸田政権だ。昨年10月末の衆議院選挙で信任を得た現政権は、参議院選が終わるまでは、できるかぎり波風を立てたくない。ゆえに野党から攻撃されて、国民的な議論になる法案などはいっさい手控えて通常国会を乗り切った。そうなると野党も突っ込みようがない。まれに見る中身の薄いダメ国会となり、参議院選に突入したのだった。

現政権は電力不足の解消に原発再稼働を目指しているのだから、酷暑の時期にこそ再稼働を訴えるべきである。しかし「電力逼迫注意報」を出して国民に節電を哀願するのみ。選挙が終わるまでは、再稼働に反対者の多い「原発」について触れたくなかったのであろう。

海外の多くの国でマスク着用が解除されているのに、岸田首相や閣僚はいつもマスク姿だった。着用しなければ、恐怖ウイルスに感染してしまっている国民から批判を浴び、得票が減ることを怖れていたのかもしれない。とにかく選挙を前にすると、どの党派も議員たちも保身、自己防衛、事なかれ主義に陥るのは毎度のことである。

いざ選挙戦が始まると、大都市では候補者が乱立。東京選挙区は34人の候補者による6議席の争奪戦。多くの有権者は誰に「清き1票」を投じたらよいか判断できず、ヤケ酒ならぬヤケ投票に。昨年7月の都議選でもそうだったが、参議院選の東京選挙区では女性候補者の「美人コンテスト」の様相を呈した。ただ目立ちたいだけの泡沫候補者は、政見放送で言いたい放題。とても視聴に堪えません。なんというレベルの低さであることか。

国民が主権を持つ民主主義国において、選挙がきわめて重要な制度であるのは言うまでもない。であるならば、劣化してしまったこの制度の質を上げるために、工夫すべきことがいろいろあるのではないか。

アメリカの制度を真似はできないにしても、たとえば、政党や候補者のマニュフェストが、選挙後に履行されたかどうかを検証して公表する公的な機関を設置できないものか。宗教教団や各種団体・企業の利害利権にからむ組織票を厳重規制できないだろうか…。

日本ではこのあと約3年、国政選挙は行われない。比較的静かなこの時期にこそ、選挙制度の在り方を見直す好機と捉え、改善に踏み出してほしいものである。

(次回は9月第2週号掲載)

〈プロフィル〉 丸山敏秋(まるやま・としあき) 1953年、東京都に生まれる。筑波大学大学院哲学思想研究科修了(文学博士)。一般社団法人倫理研究所理事長。著書に『「いのち」とつながる喜び』(講談社)ほか多数。最新刊『至心に生きる 丸山敏雄をめぐる人たち』(倫理研究所刊)。

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