Nagano Morita a Division of Prager Metis 日下武「ビジネスのツボ」 第110回
最近、新型コロナウイルスのワクチンのニュースを目にすることが増えました。人々の関心は予防効果や接種後のリスクにあると思いますが、数字の捉え方や見せ方で印象も変わることがあります。
例えば先日、米ファイザー社、そしてモデルナ社が、それぞれ開発したコロナワクチンの予防効果がニュースになっていました。CDC(米疾病対策センター)が3月29日に公表したデータによりますと、この2種類のワクチンのいずれかを2回接種した後は感染を90%抑制するという効果あったということです。このデータの期間は去年12月半ばから3月半ば、医療・福祉従事者や教師など現場に立つ4000人を対象としているということです。
私のような医療の素人が90%の効果があると聞くとほとんどの人に効果があるという印象を持ちました。ただ、私の知り合いに医療従事者がいるのですが、彼は4000人という対象で判断するのは早すぎると言います。逆にいうとそのような小さい対象にもかかわず400人には効果がなかったという言い方もできるのではという意見を言っていました。
確かに90%の人に良い効果があったという表現の方法と、400人に効果がなかったという表現では印象は違いますが、どちらも事実には変わりありません。
結局、判断するのは自分自身になるのですが、数字の見せ方で印象は異なります。このような表現の方法で印象が変わる効果のことを経済行動学ではフレーミング効果と言われています。日本人の友人にマンハッタンでラーメンを食べると1杯15ドルほどするというよりは、1500円ほどすると言ったほうがインパクトがあります。ゼロの数の問題か、それとも日本との物価の違いか、単にドルに慣れていいないのか、それはわかりませんが、高価ということを言いたいときに円で表現したほうが印象が伝わるようです。
違う例をいうと40歳の男性が、40歳まで彼女が1人しかいませんでしたというのと40歳までたった1人だけの女性とお付き合いしましたというのは印象が違います。前者はモテないという印象を与えるのに対し、後者は、一途でいい人そうという印象を与えます。
人は複数の選択肢から選ぶ際、絶対評価よりも相対評価を優先する傾向にあると言われています。表現方法に意思決定や判断を委ねるため、この理論はビジネスシーンでも多く用いられます。相手の表現に惑わされないことも大切ですが、逆にフレーミング効果を使って相手の意思決定を誘導するのも面白いかもしれません。
(次回は5月第2週号掲載)
〈プロフィル〉 日下 武(くさか たけし) Prager Metis CPAs Boston/NJ マネージャー。大手日系食品商社での営業経験を生かし、顧客の立場になって、全体的なビジネス、会計、税務相談を受けている。メーカーからレストラン、リテーラーマで、幅広く顧客を持つ。
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