着床前診断5 性染色体(男女産み分け)と22対の常染色体の着床前診断の落とし穴
アジアの発展途上国における
着床前診断治療からの教訓:その4
廉価な医療には危険が伴う:卵巣過剰刺激症候群~
前回のリポートでは、性染色体を含む23対の染色体異常を調べる着床前診断を望み、廉価な着床前診断を求めてアジアに渡航した患者様から、必要医療過程が怠った結果の卵巣過剰刺激症候群(OHSS)に陥ったという内容の問い合わせが相次いでいることをお伝えしました。今回は、OHSSについて詳しく説明いたします。
症状は余り問題にならない軽度なものから非常に危篤で重症に至るものまで広範囲に亘ります。適切なモニターが行なわれる管理下における排卵促進剤投与サイクル中であっても、卵巣内の卵胞を採卵に向け成熟させることを目的としているため、卵胞が多い患者様は卵巣が大きくなり通常の服のウエストがきつくなることも多々ありますが弊社がこの10年間、500件以上の生殖医療のコンサルテーションを行っている中、中度の症状のOHSSは0・2%ほどの発生率で、緊密な検査とモニター、そして専門医の適切な指示のもと、重度なOHSSはほとんど回避できるものです。緊密な検査とモニターとは、通常のOHSSが心配されないケースであっても、①排卵促進剤投与開始日②排卵促進剤投与導入期は一日おきほど③卵胞が14ミリほどに育った時点からはほぼ毎日―行なわれることを指します。
OHSSは血液検査と内診によってフォローアップされますが、排卵促進剤投与期間は血中エストラディオール(E2)を最低でも隔日に検査され、異常な上昇に対して注意が施されることによりOHSSが予防されます。
着床前診断を求めてアジアに渡航した患者様から、胸下まで腫れが上がってきて痛み苦しくて動けなかった、という報告がありますが、上記の検査・診察が行なわれない結果、OHSSで重度になると腹水・胸水(呼吸困難に陥る)、血液濃縮による死亡、乏尿、肝・腎機能検査値異常(急性腎不全を含む)、全身浮腫、卵巣捻転などが症状として現れます。卵巣の茎捻転が発生し放置の結果、血管のねじれによる血流が途絶えから卵巣が壊死(えし)します。
次回からは、どのようにOHSSを予防するか、そして、性染色体(男女産み分け)と22対の常染色体の着床前診断を行った受精卵で妊娠するために重要なことは何か、をリポートいたします。
(次回は5月4日号掲載)
〈プロフィル〉清水直子(しみず なおこ) 学習院大学法学部卒業、コロンビア大学で数学を学び、ニューヨーク大学スターンスクールオブビジネスでMBAを取得。マウントサイナイ医科大学短期医学スクール修了。メリルリンチの株式部で活躍し、2003年さくらライフセイブ・アソシエイツを設立。
【ウェブ】www.sakuralifesave.com/