〈コラム〉さくらライフセイブアソシエイツ代表・清水直子「米国最先端臨床現場から」海外治療コンサルティングリポート 第6回

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着床前診断6 性染色体(男女産み分け)と22対の常染色体の着床前診断の落とし穴:…

アジアの発展途上国における
着床前診断治療からの教訓:その5
廉価な医療には危険が伴う:卵巣過剰刺激症候群~

前回のリポートでは、性染色体を含む23対の染色体異常を調べる着床前診断を望み、廉価な着床前診断を求めてアジアに渡航した患者様から、必要医療過程が怠った結果の卵巣過剰刺激症候群(OHSS)に陥ったという内容の問い合わせが相次いでいること、そしてOHSSとは何かについて詳しく説明いたしました。今回は、このOHSSをどのように予防するかを説明いたします。
前回の繰り返しになりますが、体外受精サイクルにおいて、最も大切なことは、緊密な検査とモニター、そして専門医の適切な指示です。これが行なわれていれば、重度なOHSSはほとんど回避できます。緊密な検査とモニターとは、OHSSが心配されない通常のケースであっても、①排卵促進剤投与開始日②排卵促進剤投与導入期は一日おきほど③卵胞が14ミリほどに育った時点からはほぼ毎日―行なわれていることを指します。血中エストラディオール(E2)の数値に対して注意が施されることにより、排卵促進剤の微妙な調整を行ないOHSSが予防できます。しかし、成熟した卵胞を採卵することが成功の要件であるため、各卵胞の成熟のためには排卵促進剤の投与は必須であることから、この調整は正確な判断が問われます。
発育している卵胞が多い(両卵巣で計25個以上)、もしくは多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)である場合は、E2が急上昇することがありえます。その場合は、通常、排卵誘発の為に最終の仕上げとして採卵36時間前に投与されるhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)もしくはOvidrel(組み換えhCG)の投与は更にE2の上昇を引き起こし、OHSSを促進するので使用を控え、Lupron(酢酸ロイプロリド)で代替することによってE2の上昇を防止し、OHSSを予防します。もしくは排卵促進剤投与の中止(サイクルキャンセル)も一つの選択です。
女性の体は、人それぞれで、年齢でグループ化できるものではありません。30代半ばで閉経に近い生殖能力である方もいれば、40歳でも妊娠能力を持つ健康な卵胞が十分にある方もいます。特に、不妊のためではなく着床前診断を希望するために生殖医療の治療を利用する生殖機能が健康である女性は、特にOHSSのリスクもあることから、必要な検査と緊密で適切な医師の管理が必要です。廉価な治療にはこのような綿密なケアがなされず、目的である着床前診断さえ行なわれれば良い、と全ての患者様を一様に扱う傾向があります。次回からは、体外受精を伴う着床前診断を成功させるために知っておくべきことをリポートします。
(次回は6月1日号掲載)

sakura life profile Photo〈プロフィル〉清水直子(しみず なおこ) 学習院大学法学部卒業、コロンビア大学で数学を学び、ニューヨーク大学スターンスクールオブビジネスでMBAを取得。マウントサイナイ医科大学短期医学スクール修了。メリルリンチの株式部で活躍し、2003年さくらライフセイブ・アソシエイツを設立。
【ウェブ】www.sakuralifesave.com/

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