〈コラム〉戦後70年に思うこと

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倫理研究所理事長・丸山敏秋「風のゆくえ」 第46回

2015年のキーワードの一つが「戦後」である。昭和の大戦が日本の敗北で終結してから70年に当たるからだ。歴史認識をめぐる国内の、あるいは国際間の摩擦が、これまで以上に起こると予想される。
去るクリスマスの日に全米でアンジェリーナ・ジョリー監督の映画「アンブロークン」が公開された。ローラ・ヒレンブランドによる同名の小説が原作である。日本での公開は未定だという。なぜなら原作は真実にもとづくと言いながら、事実とは思えない「反日的」な描写が満載されているからだ。主役の米兵捕虜ルイス・ザンペリーニ氏が日本軍から残虐な仕打ちを受ける場面がとくにひどい。
オーストラリア戦争記念館の通訳もつとめた丸谷元人氏が、いち早く、この原作の杜撰さを指摘する本を出版した(『日本軍は本当に「残虐」だったのか』)。それによると、捕虜はつづけて220回も顔を殴られたとか、生きたまま焼かれたとか、日本人には「人食いの習慣」もあったと、めちゃくちゃなことが書かれている。ザンペリーニ氏は実在した人物だが、著者は面識もなく、電話での聞き取り取材しかしていなかったという。
かつて日本軍は捕虜を虐待などしなかった、というのではない。丸谷氏自身も調査し、捕虜に暴行を加える日本人兵士がいたことを認めている。他方、生活習慣の違いから、収容施設で受けた扱いを虐待と思い込んだケースもあったらしい。ともあれ作品を盛り上げるために、事実とは違うエスカレートした場面を描くのは遺憾である。
過去の戦争を文章や映像で綴るとき、戦う側同士を公正に扱うのは難しい。どうしても作者の歴史を見る目が主観として介入する。だからこそ綿密な取材が必要であり、故意に歴史を歪めるようであってはならない。不十分な偏った取材による空想や捏造の描写があれば、深刻な国際問題にまで発展してしまう。
昨年は戦争をめぐる「慰安婦」問題で、一人の虚偽の報告に基づいて誤った記事を発信しつづけた日本の大新聞社が、記事を取り消して謝罪した。しかしもはやそれは、取り返しのつかない国際問題になってしまっている。
歴史は虹を見るようなものだ、と言った人がある。虹は、眺める角度によって7色が微妙に違って目に映る。赤が強かったり、青が強かったり、全体がぼんやりしていたり…。歴史も同様で、見つめる視点によって異なる認識が生まれる。ましてや色眼鏡をかけて見たら、真実からいよいよ遠ざかってしまう。
昭和の大戦からもずいぶん遠くなってしまった。現代の日本の若者は「戦後」と聞くと、東西冷戦後のことだと思うらしい。未曾有の世界大戦を経験した人たちも少なくなりつつある。それだけに戦争をはじめ、歴史を正しく見つめる目を養いたい。私見を離れた歴史認識のすり合わせは大変に難しいが、時間をかけながらじっくりと進めたい。新たな対立や争いを防ぐために、そうした地味な努力が必要とされている。
(次回は2月第2週号掲載)

20141214_Mr_Maruyama〈プロフィル〉 丸山敏秋(まるやま・としあき) 1953年、東京都に生まれる。筑波大学大学院哲学思想研究科修了(文学博士)。社団法人倫理研究所理事長。著書に『「いのち」とつながる喜び』(講談社)、『今日もきっといいことがある』(新世書房)など多数。

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