アーティスト・林世宝「チリも積もれば芸術に」第43回
前回(5月9日号掲載)は「つなごう 心と心 走ろう 愛のために」と題し、東日本大震災から5年目になる来年、作品を持って東北へ行こうという企画を紹介しました。その作品の一つである「漂流木の歌」は、地震による津波の映像をみて、心に浮かんだ詩をタイトルにしたものです。
「我々は、何年もかけて地中に根を張り大地を支え、天に向かって枝葉を伸ばし、空気を浄化し、地球に住む生き物を支えてきた。平地から高い山まですべてが我々の家だった。数百歳ともなると、人間から神木として崇拝され、その土地の生き物たちと仲良く何千年も暮らしてきた。これまでも、我々の仲間が犠牲になる事はあったけれど、3月11日の地震はひどかった。巨大な津波が大きな口を開け、陸にあがるや、家、車、船、人をひと息に飲み込み、バラバラにして残骸を吐き出した。なんと無残な…。流れ着いた漂流木が泣いている」
バラバラになって流れ着いた流木が、被災地の人たちの涙と重なりました。人間が、開発、発展と称して自然を破壊し続ける限り、地球のどこかで同じようなことが繰り返される事は明らか。残された我々はどのように未来を生きていけばよいのでしょう。
被災地の人たちが立ち上がり、元の姿を取り戻そうと懸命に取り組む姿勢と同じように、流木もまた、自分たちの土地に戻り、豊かな自然を取り戻したいと願っているのでは。
「漂流木の歌」は、人と自然の再生を願う作品。海辺に流れ着いた木々を素材とし、前進と発展を象徴する車の造形に仕上げます。発展を続けながら、自然環境を取り戻すという矛盾ともみえるような大きな課題を乗り越えるため、人類の英知を集結し、未来に向かって一緒に進んでいきましょう。ネバーギブアップ!
(次回は9月第2週号掲載)
〈プロフィル〉 リン・セイホウ 1962年台湾生まれ。日本に留学中に日展、日仏現代美術展に出展し数々の賞を受賞。その後、渡米し、96年NY大学大学院修士課程を修了。NY現代美術展メディア賞、アジア傑出アーティスト賞などを受賞。世界中から素材を集める、ハート集結シリーズの代表作には「智恵の門(愛知万博)」、「ラブツリー(20万のおしゃぶり)」がある。NY在住。【フェイスブック】www.facebook.com/lin.shihpao