丸山敏秋「風のゆくえ」第21回
予期しないこと、サプライズ現象が立てつづけに起こる。それは、すでに変革が始まっていることを意味する。
この秋の日本の政治もそうである。9月26日、自民党では40年ぶりの決選投票の末、逆転で安倍元首相が新総裁に返り咲いた。かつての同党は長老や派閥の領袖たちが後継総裁を談合(密室)で決めていた。
しかし今回は違った。現職の総裁は降ろされ、長老グループが推した若手候補はずっこけ、党員から多くの支持を集めた強面(こわもて)の本命は決戦で敗れた(そして幹事長に就任)。面白いと言ってはなんだが、国民からすればサプライズの連続で、実に興味深いドラマだった。
さらに11月14日には国会での党首討論で、野田首相がいきなり「解散」を突きつけて勝負に出た。あわてふためいたのは身内の民主党議員たちである。翌々日に衆議院は解散。それは「馬鹿正直解散」とも「奇襲解散」とも呼ばれている。日本の政界は大混乱の中で変革を余儀なくされた。結果は間もなく出る。
未来に起こることは予知できない。けれどもある程度の予測は可能だ。歴史を学ぶのも、未来予測に有益であろう。リーダーにはとくに先見力が求められる。先が読めない指導者になど、不安で誰もついて行けない。
広い場所で目隠しをして歩いてみたらわかる。絶対にまっすぐ歩けない。かならず曲がってしまう。体は左右に歪みがあるからだ。それでも目隠しをずらして、ボーとでも先が見えたら、まっすぐに歩ける。方向さえ定まれば、毅然と直進できる。
不透明な混迷の時代だからこそ、リーダーには進むべき方向を明示してもらいたい。西郷隆盛(南洲)いわく、「昨日出された命令が、今日またすぐに、変更になるというような事も、皆バラバラで一つにまとまる事がなく、政治を行う方向が一つに決まっていないからである」(『南洲翁遺訓』)。世の為政者たちに耳を傾けてもらいたい言葉だ。
大動乱の幕末には、多種多様な思想が生まれ出た。尊王、攘夷、公議公論、復古、文明開化…。それらは変革を望む日本人の、多彩な文化伝統の発展から生じてきたものであり、特定の学派やイデオローグの指導したものではない。そしてそれらは対立錯綜しながらエキスが搾り取られ、「明治」を方向づける基盤となった。
日本の進路はまだ見えていない。動乱が起きては困るが、混迷の度がまだ浅いのかもしれない。12月16日の総選挙は大きな山場となる。そして来年7月には参議院選挙が行われる。それまでの間に、どんなサプライズが待ち受けているだろう。
混迷をくぐり抜けてこそ、進路は定まる。国民の良識が失われてさえいなければ。
(次回は1月12日号掲載)
〈プロフィル〉 丸山敏秋(まるやま・としあき) 1953年、東京都に生まれる。筑波大学大学院哲学思想研究科修了(文学博士)。社団法人倫理研究所理事長。著書に『「いのち」とつながる喜び』(講談社)、『今日もきっといいことがある』(新世書房)など多数。