注文服と既製服 part 1
注文服を英語でCustom Clothingと言います。Order madeは通じません、誤りです。それは純然たる日本語だからです。この言葉をニューヨークで平気で使う方は、英語の勉強が不十分、かつ洋服の本質を理解していないと言わざるをえません。では、今回は注文服と既製服について少しお話しをしましょう。
1970年代以降、急速に広まった既製服(readymade)の高級化の反動からか、この20年、随分と注文服(custom)が見直されてきました。既製品とは何がどう違うのか、分かりにくい方も多いことかと思います。まず注文服とは、文字通り、注文主の体の全てを測り、注文主の型紙を起こし、デザインやディテールなど、好みを伺いながら、そして肩幅、上着の丈、襟の幅、フロントボタンの位置など、注文主の体形、体格など全てのバランスを考え、文字通り世界に一着、注文主の方だけのために存在する一着を作るのです。対し既製品は、初めから不特定多数の方々に着用してもらえるよう、デザインや着用感に時代性をも鑑みながら、普遍性ある型紙、そして万人向けのデザインを目指し、もしできうるならば、時代の流行を創り上げていくことも秘かな目的であるのです。
注文服と既製服、どちらが上かという話ではなく、同じスーツに見えて、両者全く異なる性格なのです。そして注文服の価値観とは唯一無二にあり、反対に、万人が着用可能となる優れた既製品もそれはそれで素晴らしいものなのです。自動車に例えれば、F1と普通乗用車の違いと似ているでしょうか。
F1のコックピットは、その車専用のドライバーのみにフィットし、ハンドルにも遊びはありませんが、普通乗用車においては、どのような体格の方でも運転席に乗れ、視界を確保しつつ、ハンドルにも適度な遊ぶがあり、安全運転できるようになっているわけなのです。両者の歴史それぞれに“傑作車”があることはご存知の通りです。
(次号に続く)
(次回は2月第4週号掲載)
〈プロフィル〉 ケン青木(けん・あおき) ニューヨークに21年在住。日系アパレルメーカーの米国法人代表取締役を経て、現在、注文服をベースにしたコンサルティングを行っている。日本にも年4回出張。