〈コラム〉集夢計画56「柳に雪折れなし」

0

アーティスト・林世宝「チリも積もれば芸術に」第61回

筆者が手にしている左のボールは王貞治元監督のサインボール、各国の野球選手からもらったサインボールを右のようなリースにして「希望のツリー」の上につける予定です

筆者が手にしている左のボールは王貞治元監督のサインボール、各国の野球選手からもらったサインボールを右のようなリースにして「希望のツリー」の上につける予定です

「希望のツリー」プロジェクトはスポーツとアートの融合。チャレンジと思い、畑違いの分野に足を踏み入れて1年。素材となるボール集め、協力依頼のためにさまざまなチーム、球団を回りました。なかでも日本チームの礼儀正しさは格別。甲子園優勝経験のある高校の練習場に入ると、選手全員であいさつをしてくれて、その一生懸命さは「勝つぞ」という気持ちあふれるものでした。制作資金はまだまだですが、1年半かけて集める予定だったボールは、8カ月で目標の2万5000個に達しました。

大自然に学ぶ私のアート、今回のタイトルは「柳に雪折れなし」。雪や台風で大木が倒れ被害を起こすのは、昔も今も日本も米国も同様。しかし、柔らかくしなやかなものは、剛直なものより耐久性があり丈夫、内面は固い信念を持つ例え。類似の「以柔克剛」という老子の言葉は太極拳に取り入れられ、「向外伸転」の動きに従い、外に向かって自分を伸ばしています。アジア各国の野球人の迫力は強く「剛」のイメージ。スポーツとアートの融合といっても理解してもらえず、話が進まないことも。そういう時は、誠心誠意説明して、相手の話を聞く柔軟さで対応するしかありません。見た目は固くても、話をすると柔らかく、内なる強さを感じる球界の人々。野球に対する真っ直ぐな姿勢、活力、包容力、親和力などの精神は大きな学びでした。
各地でボールを集めてくれたボランティアの8割が女性で、「女性通常都以柔情似水(女性はいつも水のように優しい)」という言葉が思い出されます。

日本で集められたボールはニューヨークに向けて現在航海中。私の元へ集まってくる多くの人の夢や希望、そして球界から学んだスポーツ精神を、美しいアートで表現する、それが私の仕事です。
(次回は9月第2週号掲載)

〈プロフィル〉リン・セイホウ 1962年台湾生まれ。日本に留学中に日展、日仏現代美術展に出展し数々の賞を受賞。その後、渡米し、96年NY大学大学院修士課程を修了。NY現代美術展メディア賞、アジア傑出アーティスト賞などを受賞。世界中から素材を集める、ハート集結シリーズの代表作には「智恵の門(愛知万博)」、「ラブツリー(20万のおしゃぶり)」がある。NY在住。【フェイスブック
過去の一覧

Share.