アーティスト・林世宝「チリも積もれば芸術に」第69回
私はこの1年、クイーンズにあるCrystal Window & Door Systemsの工場の一画を借りていろいろな作品を制作しています。アーティストに制作と発表の場を提供するレジデンスシステムは、ニューヨークではよく耳にするのでご存じの方も多いのではないでしょうか。
台湾では学校や芸術村が提供されることが多く、そこにいるアーティストを駐校芸術家、駐村芸術家といいます。私は工場に駐在しているので駐場芸術家とでもいいましょうか。アートとは無縁の人たちが働く工場ですが、作品のことを聞きつけて、仕事の傍ら次々見に来て、声をかけてくれるようになりました。街全体を美しくしたいという思いで、ドアのない美術館の発想を展開して30年になりますが、会社や工場にアーティストが駐在すればアート効果がもっと社会に広がっていくのではないかと感じています。
工場での人の働きや物の流れを見ていて気付いたことがもう一つ、「人尽其才・地尽其利・物尽其用・貨尽其通」です。100年以上前の孫文の言葉で、人は能力を100%発揮できるように適材適所に配置し、土地は最大限有効に利用し、物は無駄なくすべて使う、そして作ったものを一日も早く必要なお客さんに流通するという意味で、この会社はこれが上手く回って成功しているように思います。古い知恵が現代社会にも十分通用している良い例です。
物を大切に使うことを改めて考える必要があると思い、はじめた天使計画。素材は工場のリサイクル置き場で見つけた廃材3トンです。不用之用(使わないものを使う)。世界の万物はすべて輪廻転生し、世の中は原因結果。悪い行いは悪い結果を生み出します。地球に優しい行動を誰もが考えるようになってきているので、これから良い結果が出てくることを願いながら制作を続けています。
(次回は1月第3週号掲載)
〈プロフィル〉リン・セイホウ 1962年台湾生まれ。日本に留学中に日展、日仏現代美術展に出展し数々の賞を受賞。その後、渡米し、96年NY大学大学院修士課程を修了。NY現代美術展メディア賞、アジア傑出アーティスト賞などを受賞。世界中から素材を集める、ハート集結シリーズの代表作には「智恵の門(愛知万博)」、「ラブツリー(20万のおしゃぶり)」がある。NY在住。【フェイスブック】