心臓を守るために縮こまった姿勢になることも

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猫背のお話(3)
瓜阪美穂「理学療法士が教えます」身体が痛い本当の理由【第36回】

今回登場するのは「心臓」です。第35回(8月10日号掲載)でも心臓と猫背のつながりをお話ししましたが、今回はその内容を詳しく説明します。

心臓は体の中で一番大事な臓器です。例えば事故などでけがをした時に「脳死」の状態でも現在の科学では臓器を維持することが可能です。ところが「心臓死」ということは無く、心臓から送り出される血液の流れがなくなると全ての臓器が働かなくなり死亡します。この大事な臓器である心臓には何かあれば反射的に守ろうとする筋膜の反応が備わっています。

この筋膜を解剖学で見てみましょう(図参照)。心臓は胸の中にあり、靭帯(じんたい)によって肋骨(ろっこつ)とつながっています。さらに心臓は肺の間にあり、心膜という2枚重ねになっている筋膜組織が嚢(ふくろ)のように心臓の周りを覆っています。心臓は背骨のC4(首)からT4(胸)、横隔膜、気管などの間にある椎骨心膜靭帯でつながっています。そのため、心臓に何か問題があると靭帯を通してつながっている首や胸周りも動かなくなります。

そして心臓の筋膜は私たちの感情にも反応します。例えば、つらい出来事によって、心臓がキューっと締め付けられるような感覚を感じたことはありませんか? そういう時は実際に自律神経の反応によって心膜が肋骨の内側から絞られています。肋骨が絞られるため、心臓の隣にある内臓の空間が小さく縮み、肺が広がらなくなるので呼吸もできなくなります。パニック発作(Panic attacks)などはそれが原因です。

心の痛みがある時に姿勢を正そうとしても、体は心臓を守るために姿勢を変えさせません。ですから、無理に姿勢を変えようとするのでなく、ゆっくり靭帯や筋膜をほぐしていくことで「もう心臓は大丈夫」と体が安心すれば、徐々に肩が開いて猫背が治っていきます。

(次回は12月第3週号掲載)

瓜阪美穂〈筆者プロフィル〉
瓜阪美穂(うりさか みほ)  理学療法博士、整形臨床スペシャリスト。ニューヨーク州立大学ビンガムトン校を卒業後、南カリフォルニア大学理学療法博士課程を修了。ブロードウェイミュージカルのダンサーの理学療法士としても活躍中。米国の理学療法により、自身の身体に興味をもち、正しい動作を生活に取り入れることを目的に治療や指導を行っている。
★身体に関する皆様からの質問も受け付けています。
【ウェブ】https://omptny.com/ja/

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