ほぼ全員が間違える? 猫背を直さなきゃ!の落とし穴

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〈特別編〉猫背について
瓜阪美穂「理学療法士が教えます」身体が痛い本当の理由【第34回】

肩凝りや腰痛で悩んだ結果、「私は猫背だから姿勢を直さなきゃ!」と考えるようになる方はとても多いです。日本人は小さなころから、座る時に「しっかり足を閉じて背筋を伸ばしてお行儀良く!」と言われている人が多いですよね。猫背をやめて、姿勢を正しく…。この時に例外なく患者さん全員が間違った姿勢になってしまいます。これから4カ月かけて姿勢についてお話していきます。

通常の間違い

猫背になっている時は、肩が前に出て、胸が小さくすぼめられているのが特徴です。日本に「背筋を正す」という表現があるからでしょうか、反対に姿勢を正そうとすると背中に意識が行くあまり、胸が収縮した状態で上に持ち上げて腰を反らせます。ただし、これだと肝心の肩の位置が変わっていません。その上、腰を反らしすぎて背筋(はいきん)に負担が掛かることで腰痛になってしまう方がほとんどなのです。姿勢を正しく維持するには、腰椎へ負担を掛けずに胸を開いて肩を引いた状態が正しい姿勢の取り方です。下記の姿勢維持の気をつけるポイントをご参照ください。もちろん1回や2回行っただけでは体の癖は変わらないので、この二つのポイントを考えながら運動をしてみてください。胸筋に柔軟性を加えるために、背中上部にあるひし形筋を強化する肩甲骨を引くトレーニングや、体幹を作る腹筋エクササイズをジムや家で行ってみましょう。だんだんと姿勢が変わっていきます。

姿勢維持で気を付けるポイント

ステップ(1) 腹筋

腰椎はコルセットのような腹横筋によって守られています。まず椅子に深く座って、お腹をへこますようにしながら下腹部を引き上げます。この時に腰を反らないように気を付けましょう。腹筋の収縮によって腰のポジションを安定させます。

ステップ(2) 胸を開く

胸の内側にある胸筋が硬くなって縮こまっていると、肩が前に引っ張られて背中が丸まります。そこで胸を開くために肩甲骨を上に持ち上げて、グッと後ろに引いて、そおっと下に降ろします。肩甲骨の間にミカンを置き、そのミカンを挟むようにぎゅーっと絞るイメージをしてみましょう。胸や鎖骨が開くことを意識してみると良いでしょう。

 

体は筋肉と骨だけではない

ただし、これまでのお話は肋骨(ろっこつ)の外側の治療についてです。このように腰を反らさず胸をストレッチして、背中の上部を強化していくのが一般的に行われている事ですが、実はそれ以外にも猫背を誘引する原因があります。上半身の大事な組織である肋骨。あばら骨とも言いますね。もともと肋骨は、体の大事な内蔵を守るために存在しています。あばら骨の内側にある組織も肋骨や背中につながっており、内側から背中が丸くなる方向に骨を引っ張り、猫背を助長しているケースが多々あるのです。

肺・心臓・胃なども猫背の原因に

肺 例えば肺も猫背を助長することがあります。肺は、環境によって炎症が起こることがあります。季節によって起こるアレルギーだったり、特に重いケースは喘息(ぜんそく)、肺炎などですね。このような炎症が起こると、肺の筋膜が硬くなり、傷痕のような瘢痕組織(はんこんそしき)ができます。その瘢痕組織の突っ張りによって肋骨が内側に引っ張られます。

心臓 心臓も猫背を引き起こす原因になることがあります。例えば交通事故などでむち打ち症になってしまうと、ぶつかった衝撃で体の中の臓器全てが動きます。心臓も、肺も、胃も衝撃と共に体内で動くわけですが、その時、たくさんの筋肉に囲まれていて重量があり密度の高い臓器である心臓は、他の臓器よりも激しく動いてしまいます。心臓は体の中でも最も大切な臓器ですから、守ろうとする体の中の組織が一気に収縮し、心臓の位置がぶれたりしないように止めようとするわけです。心臓は実は肩甲骨のちょうど真ん中あたりにつながっているので、肩甲骨周りが引っ張られて、猫背の姿勢が作り上げられてしまうわけです。

胃 胃もたれも原因の一つになります。消化不良があり、胃が下がると、食道と喉も一緒に下に引っ張られます。この引っ張りがある場合、体を内側に丸めると、胃にとっては快適な形なので、ついつい「猫背」の姿勢を取りがちです。胃が痛い時はうずくまりますよね。実は、これは胃の筋膜を緩めて痛みを抑えている反応です。胃に痛みを感じていなくても何か問題があれば、体はひそかにこの姿勢をとることで体を守っているのでさらに猫背を促します。(本紙2016年5月21日号掲載:当コラム『首の痛みの原因は内臓にあった?』参照)

猫背一つにもさまざまな理由が

猫背一つとっても、こんなにもいろいろな原因があるとは、体というのは本当に複雑で繊細で、また興味深いものですよね。引き続き、思いもよらない猫背の理由をお話していきます。

(次回は9月第3週号掲載)

瓜阪美穂〈筆者プロフィル〉
瓜阪美穂(うりさか みほ)  理学療法博士、整形臨床スペシャリスト。ニューヨーク州立大学ビンガムトン校を卒業後、南カリフォルニア大学理学療法博士課程を修了。ブロードウェイミュージカルのダンサーの理学療法士としても活躍中。米国の理学療法により、自身の身体に興味をもち、正しい動作を生活に取り入れることを目的に治療や指導を行っている。
★身体に関する皆様からの質問も受け付けています。
【ウェブ】https://omptny.com/ja/

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