強くしなやかでたくましい心を養うことが時代を乗り切る心得
「自己を高め深める〜大変動の時代の心得」
ニューヨーク倫理友の会は9日、名門プライベートクラブのニューヨーク・アスレチッククラブで第17回年次総会を開催した。
同会理事長のリンゼイ芥川笑子氏の司会進行の下、リンゼイ氏のあいさつに始まり、メーンイベントである一般社団法人倫理研究所理事長でニューヨーク倫理友の会総裁の丸山敏秋氏による講演の後、国連代表部次席大使の川村泰久氏による祝辞、理事や来賓の紹介、コーリン・ジャパニーズトレーディング代表取締役社長・川野作織氏によるジャンケン大会など、フルコースのディナーが振舞われる中、会は和やかな雰囲気で進んだ。
毎年恒例のゲストアーティストとして登場したのは、国際的に活躍するヴァイオリニストで音楽学者のレイ・イワズミ氏。ピアニストの碓井俊樹氏とのコラボレーションによりクライスラーの「愛の喜び」、イザイの「子供の夢」、ブラームスの「第5番」などアンコールを含め8曲を披露した。その内の「Deep river」など3曲は、岩手県陸前高田市の「奇跡の一本松」が使われた「津波バイオリン」で演奏された。このバイオリンの演奏回数は500回を超えたが、参加者の中には「いつまでも演奏し続けて」との声も上がった。
イワズミ氏はジュリアード楽院で博士課程、ブリュッセル王立音楽院の修士課程を首席で卒業。米国、欧州、日本を中心に活動し、ニューヨークのリンカーンセンターでもソロや室内楽のコンサートを数多く行う。また、音楽学研究者でもあり、イザイの無伴奏ソナタについての独自の研究は数々の記事などにおいて論文が引用されている。現在はジュリアード楽院で後進の指導に当たる。
そして、会のメーンである丸山氏による記念講演テーマは「自己を高め深める~大変動の時代の心得」。丸山氏はまず、われわれは現在、人類文明の大転換の時代に生きているという説明から始めた。2016年の米国大統領選や英国の欧州連合(EU)離脱、スペインのカタルーニャ州や中東諸国など国の分断があり、日本国内も天皇の譲位が検討され、総選挙が行われたことを例に挙げながら、予期しない・予測できないことが起きていることを大転換の特徴と捉え、250年前の欧州で生まれた近代西洋文明が変わろうとしていることを示唆した。
また、米国のマネジメントの神様、故ピーター・ドラッカー氏の著書「ネクスト・ソサエティ」(02年)の一節「自信を持って予測できることは、未来は予測しがたい方向に変化するということだけである」を引用。日本画を見て正気を保っていたドラッカー氏のエピソードを交えながら、この大変動の時代を乗り越えるためには、自己を磨いて高め、たくましく生きる力を養っていく必要があると、この日のテーマに迫った。
そして、人間は根は善良な生きものだが、利害損得に弱くだまされやすいことを挙げ、中国の思想家・孔子の「利を見ては義を思う」、フランスの哲学者・ブレーズ・パスカルの「人間は考える葦(あし)である」という言葉などを紹介。われわれは弱いからこそ君子をモデルとして自分の中にたくましい力・徳を養う必要があると説き、その方法として、孔子の教えである「成すべきことを先に行い、自分の得になることは後に後回しにする」という考えを紹介した。
続いて、明治時代を築いた先人たちが志を持って自分を高める努力をしていたこと、当時若者の間にみなぎっていた「修養の気風」が、90年代のバブル崩壊以降衰えたことに触れた上で、自己を高めるために必要な三つの心得を挙げた。一つめは、不安定な時代を生きることに対し腹を据え、覚悟し、むしろ前向きに喜ぶこと。文明の大変動は人間の力を超えている。自然と同様、文明にも経済・景気にも周期があることを前提に、伝説の経営者・故今井寅吉氏の説いた「お金持ちになる秘訣(ひけつ)」を、ユーモアを交えながら紹介した。二つめは、二元対立をやめること。物事は陰陽のごとく二つに分かれているものだが、それを対立させることはもともと東洋人に合わない。今は多元共存で生きる時代であると説いた。三つめは、不要なものを捨てること。物の働きを生かして捨てる、私利私欲を捨てる努力をすることで天の助けに恵まれる、と語った。
最後に岡山県にあるノートルダム清心学園の前理事長でシスターの故・渡辺和子さん『面倒だから、しよう』の著書と、故マザー・テレサのエピソードを紹介し、本当の奉仕の心、すなわち強くしなやかでたくましい心を養うことが、これからの時代を乗り切る心得の根本かもしれないと締めくくった。
参加者にとっては、変動の時代において生きぬく上での心構えを得て、自己の生き方を今一度見直す機会となった。
(文・Hisato Fushiki)
(写真はいずれも9日、ニューヨーク・アスレチッククラブ=撮影:野村)
(2017年11月18日号掲載)