「パーフェクト」な日なんて、絶対来ない
「ガチ!」BOUT.66
舞台俳優として20年以上のキャリアを持つ、川平慈英さん。三谷幸喜作・演出、香取慎吾主演の逆輸入ミュージカル「TALK LIKE SINGING」で、ストーリーテラーとして重要なダイソン博士を演じ、その存在感をニューヨーカーに知らしめた。緊張と興奮の毎日という、忙しい公演の最中、オフブロードウェイデビューまでの道のり、観客のニューヨーカーの印象など、お話を伺った。同作は1月下旬から日本で凱旋(がいせん)公演を行う。(聞き手・高橋克明)
「TALK LIKE SINGING」に出演
舞台本番前にお時間を取っていただきありがとうござ…。
川平 (かぶせつつ)今日もかまします。ガツンッと! はい!!
残り2日間、4公演ですがお気持ちは「あと、4回もあるのか」「もう、4回しかないのか」どちらでしょ…。
川平 (かぶせつつ)もう、4回しか!ですよね。早いなーっ、いやーっ、早い!ジェットコースターのような日々で、もうカウントダウン入ってる感じです。やっぱりあの温かい声援というかお客さんの反応が熱いので、今は舞台上の1分1秒をエンジョイさせてもらってますね。
日本語と英語、両方を使いこなす役は、他の出演者に比べてバイリンガルである川平さんにはアドバンテージがあったんではないでしょうか。
川平 確かに他のキャストは(英語で)随分苦労してたみたいですよね。(大声で)そりゃそうだ!! 例えば僕がフランス語や中国語を要求されたら大変ですもん。でも逆にけいこ中はね、英語を理解しているスタッフが少なかったので、結構孤独だったんですよ。1人ベラベラ英語でジョークしゃべってもみんなノーリアクションでドン引きだったんで。これ、(本番で)通じるのかなって(笑)。だから初日に、お客さんから反応があった時は三谷(幸喜)さんと2人で「やった。信じて良かった」って言い合ってね。うーれしかったですねー。
三谷作品には今までも舞台をはじめ、映画、ドラマと何度か出演されています。三谷監督の演出はいかがでしょうか。
川平 今回も三谷さんには質的にも量的にも非常に高い要求をされてます。でもそれは裏を返せば“おいしい”状況をつくってもらってるって事ですから。今でもダメ出しされてますけどね。「今日のジェイはちょっと遊びすぎてたね」とか。厳しいですよ。このダイソンという役はちょっと油断すると、間違った方向に行く可能性のある役なので、うーん、なんて言うんですかね、三谷さんとけいこ場で作り上げてきたダイソンの“衣”をしっかり着ていく感じでいきたいですね。
出演のオファーの決め手はご自身なりに分析すると…。
川平 (さえぎって)その辺はね、全くしゃべってくれないんですよ、三谷さんって。なぜ僕に声を掛けてくれたのか。まぁ、日本語と英語の橋渡し的な部分もあるでしょうけど、それだけだとほかにもバイリンガルの役者さんはたくさんいますしね。う〜ん、千秋楽迎えたら聞いてみようかなって思います。(笑)
最初にこの役のオファーが来た時はどう思われま…。
川平 (完全に質問にかぶせて)そりゃあ、もう拳突き上げましたよ。きたーッ! って。母の生まれたこの国で、日本人としても、表現者としてもこんな幸せなことは無いでしょう。
役者冥利(みょうり)に尽きるというか。
川平 うん、こんな経験無いですよ。それは役者一同みんな言ってます。堀内(敬子)も新納(慎也)も、もちろん(香取)慎吾ちゃんもね。僕、今47(歳)なんですけど、役者として24(歳)の時にデビューして、自分を信じてやってきて良かったなって思いました。(ニューヨークは)世界でもミュージカルのトップでメッカみたいな聖地じゃないですか。そこに立てるというのはもう2度とないかもしれない。やっぱり感謝の気持ちを忘れたらあかんぞっていうカンジですよね。大きな勲章をいただいたわけですから。
今までのキャリアの中ででも特別ですか。
川平 (さらに大声で)そぉりゃあ、もう!観客は僕の事を全く知らない「Who is Jay Kabira?」なわけですから。もちろん日本人のお客さんもいるけれども、全く真っさらな状況の観客もいる中で、ポンって(舞台に)出て受け入れられるか、拍手をいただけるか。そういう勝負はどちらかというと好きなんですよ。(拳を握りしめ)やってやるぞっていう気持ちはありますね。
日本で舞台に立つ時と演じる際の気持ちに違いはありますか。
川平 心構えは全く同じです。もうこれはアフリカでやろうが、ジンバブエでやろうが、役者として舞台に立つ気構えは同じですね。ただ、やっぱりニューヨークはいい意味でシビアですよね。うん、ごまかしはきかないというか。もちろん盛り上げてくださる温かいファンの方はいるし、それに支えられていますけど、シビアに見ている人たちの視線は肌で感じますよ。「さぁ、何をしてくれるの?」「さぁ、それから?」っていう視線の集中度の高さ、深さは感じますね。舞台がピーンっとはりつめたような。その分、楽しければ、もーう、応援してくれます。温かいカーテンコールは何よりありがたいですね。
共演者の皆さんはいかがでしょうか。
川平 もうね、ここまで来ると「戦友」って感じですよ。一緒に戦っている大事な仲間ですよね。また、(全出演者が)4人だけなんでね(笑)。この4人はもちろんこの舞台が終わればそれぞれ別れていろんな事やると思うんですけど、どこかしらこう一生つながるような気がしますね。この4人で…最後まで…もし、やり抜いたら…(ちょっと涙目)…うん、大きな絆になるでしょうね。
舞台役者として、川平さんのゴールはどこでしょうか。
川平 「今日はパーフェクトだった」って日は絶対無いんですよ。多分、この先もそんな日は来ないと思うんです。パーフェクトになっちゃうと、もう役者やめればいいって事だと思うんです。毎公演、あそこが良かったら、こっちがダメ。こっちが良かったら、あそこがダメで。結局、最終日までドキドキだと思いますよ。ドキドキしてた方がうまくいくと思います。オレ、今日イケテルってなっちゃうと、もうそこで落とし穴です。すぐ調子に乗っちゃうタイプなので。(笑)
今回の舞台の見どころは。
川平 金太郎あめのようなどこを切っても面白い作品と思うんですけど、やっぱり三谷さんがつくるその世界観ですね。ただ、まあ、あんまり、キザな事、大きな事は言いたくないです。見終わった後、あー気持ち良かった、楽しかった、って心も身体も癒やされるような上質なエンターテインメントになっているので、是非“元気パワー”をもらいに来てほしいなって事くらいです。
最後にニューヨークの印象を聞かせてください。
川平 悔しいくらいイキイキしてる街ですよね。毎日ホテルからソーホー(の劇場)まで歩いて来るんですけど、行き交う人、お店のショーウインドー越しの店員、ウエイター、ウエイトレスまで、みんなイキイキしてプライドを持って生きている感じがしますね。1人1人の意志が強い街って印象です。うん、やっぱり刺激的ですね。またいつか役者として帰ってきたい街です。
◎インタビューを終えて
明るい方でした。テレビで見るあのイメージのまま、話すだけで楽しくなる、そんな方でした。舞台の上では「主役」と言っていいほどの露出度で「ハマリ役」 を演じ、ニューヨーカーたちから拍手喝采(かっさい)を浴びていました。川平さん演じるダイソン博士主演のスピンオフ・ミュージカルを見たいと思いました。取材終了後の握手は今までの誰よりも力強く、「元気パワー」をいただきました。こんな不況の折、会えて良かった、な人でした。
川平慈英(かびら じえい)
職業:舞台俳優
1962年沖縄県生まれ。高校、大学時代はサッカー選手として活躍。米テキサス州立大にサッカー留学の経験もあり。帰国後、上智大学へ編入。在学中に英語版ミュージカル「フェイム」に出演、86年スーパー・ロック・ミュージカル「MONKEY」でプロデビュー。主な舞台出演に「雨に唄えば」「Shoes On !」シリーズ、「オケピ!」「I Love You愛の果ては?」「最悪な人生のためのガイドブック」「GOLF THE MUSICAL」「ラパン・アジールに来たピカソ」などがある。その他、映画、ドラマ、司会、CMなど映像分野でも幅広く活躍。サッカー中継のナビゲーターも務めている。
〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。
(2009年12月12日号掲載)