久保純子 インタビュー NYに来てあらためて気付かされた日本の義理人情の魅力

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「ガチ!」BOUT. 264
フリーアナウンサー 久保純子に聞く

NYで暮らして1年半、思いと活動を語る

元NHKアナウンサーで、ニュース番組やスポーツ番組のキャスター、ナレーション、インタビューなど幅広く活躍し、「紅白歌合戦」の司会も務めた久保純子さん。2004年からはフリーアナウンサーとして活動の場を広げている。現在、ご主人の転勤先でもあるニューヨークで、娘さん二人と4人で暮らす、久保さんにお話を伺った。(聞き手・高橋克明)

ニューヨークに来られて、今はどれくらいたちましたか。
久保 2016年の秋からですので1年半になります。夫の転勤に伴ってきました。

渡米をするということは、日本での輝かしいキャリアを一旦、休止することになりますが、それについては、躊躇(ちゅうちょ)はなかったのでしょうか。
久保 全くありませんでした。もちろん、お仕事関係の方々にはご迷惑をお掛けしてしまい申し訳なかったのですが、わたしとしては、家族と一緒にいたいというのが大前提でしたので。実は2011年にも夫の企業留学に伴ってカリフォルニアにも2年ほど行ったのですが、その時も全く迷いはなく。今回は憧れの街ニューヨークでしたから、高校生になる長女と、小学生の次女と、みんなで頑張って行こう!と張り切ってまいりました。(笑)

後ろ髪を引かれる、というよりはワクワクな感じで?
久保 はい(あっさり)。高校の卒業旅行先で来たり、社会人になってからも、大好きなブロードウェイ(ミュージカル)を観に来たり、とにかく好きな街でしたので。

高校時代にもニューヨークに留学されていましたよね。
久保 でも、その時は、ニューヨーク州のアーケードという、マンハッタンから車で6時間ちょっと掛かる、人口2000人くらいの小さな町でした。当時はマンハッタンに遊びに行きたくても、留学生なので車の免許を取ることはできず、ひたすらローカルエリアを楽しんでいました。ですので、マンハッタンへの憧れを強く持つようになりました。

そういった意味でも、今、ニューヨークを楽しまれていますか。
久保 下の子とは、毎週、とは言わないまでも、かなりの頻度でロッタリーを申し込んでミュージカル鑑賞に出掛けています。上の娘はファッションが好きなのでお買い物によく一緒に行きますね。

ご主人の転勤でついてきたのに、3人で楽しんでいる…。
久保 そうなんですよ(笑)。夫は仕事がものすごく忙しく、出張も多いので、私たちの方が満喫してしまっていて。申し訳ないです。

目が笑ってるような気が…。お気に入りのスポットはできましたか。
久保 毎日本当に楽しいです! 歩いているだけで楽しいです。この街は1本ストリートを曲がれば、全く違う表情が出てくる。歩いていると、突然ダイヤモンド街があったり、ボタンしか売っていないエリアがあったり。お店も、例えば、スーツ屋さんをのぞいてみると、店内にゴルフの打ちっぱなしがあったり。とにかく、そのミラクルチェンジが面白くて。だから歩いているだけで、今は、喜びを感じられます。でも、バスや地下鉄に乗るのも、もちろん好きなんですよ。

キラキラっした目でお話されてますね…。
久保 本当に楽しいです(笑)。本当に信じられないです、自分がニューヨークに住めるなんて。ありがたいと日々思っています。

ご主人、今頃、一生懸命働かれて…。
久保 そうなんですよ、昨夜も夜中3時ぐらいまで日本と電話でやりとりしていました。時差があるので止むを得ないのですが。大変そうです。

とってつけた感が…。
久保 「がんばって」と日々声を掛けています。あとはミュージカルが本当に好きで、『キンキーブーツ』は、もう9回も観てしまいました。娘たちには「ママ、すごすぎる」と驚かれていますが、ロッタリーの30ドルは破格です。

30ドルで世界のトップのエンターテインメントが観られるというのもこの街の醍醐味(だいごみ)ですよね。
久保 すごいですよね。やっぱりミュージカルは素晴らしいと思います。毎回、泣いて笑って、心洗われる。生きがいになっています。生まれ変わったらミュージカル女優になりたいぐらい好きです。

……ご主人は昨夜、3時まで……。
久保 (聞かずに)『マイ・フェア・レディ』も始まって、夏には『プリティ・ウーマン』も!

でも娘さんたちにとっても、今から本物を見せるのはすごく良いですよね。
久保 本当にそうですね。彼女たちは、全てを体全体で吸収してくれている感じがします。

ご主人のお仕事によると思うのですが、ご自身の希望としては、あとどれくらいこの街で暮らされたいですか。
久保 ずっといたいです。御社のインターンとして雇っていただけませんか。(笑)

クボジュンがインターン…緊張して、使いづらくってしょうがないです。でも、お話を聞く限りいいタイミングで渡米された感じですよね。
久保 タイミング的には面白い時期に来たなと思っています。トランプ政権で一喜一憂させられて、影響されながらも、今しか味わえないような激動の時代。

確かに、劇的なタイミングですね。政権決定の時は愕然(がくぜん)としてしまったのですが…。
久保 愕然としました。今もいろいろな意味で大変なこともありますが、忘れられない日々になることは、間違いないと思います。

なるほど。日本が恋しくなることは?
久保 もちろんあります。日本も大好きですので。義理人情や人に迷惑をかけないようにする文化も、こちらに来てあらためて魅力的だなと気付かされました。実は、3・11(東日本大震災)の時、山手線に乗っていたのですが、誰一人われ先に他人を押しのけて外に出ようという人はいなくて、互いに数少ない情報を交換し合っていました。車内に2時間閉じ込められている状態でも、他人を気遣う日本人は本当に素晴らしいと思いました。

この街で暮らすと日本の日本人のすごさにあらためて感嘆しますよね。
久保 助け合いの精神というか、一歩引いた優しさというか、すてきですよね。アメリカ人の「Me! Me! Me!」という主張文化も、こちらで生き抜くためには必要な要素だと思いますが、私自身はどちらかというと日本人の奥ゆかしさがとても好きです。もちろん、ニューヨークはいろいろなバッググラウンドの人が住んでいるからこその世界観があって感銘を受けることも多いです。ボランティア精神だったり、宗教の精神かもしれませんが、多人種(国家)だからこそ、お互いの違いを認め合うという点は日本以上かもしれないですね。なので、本当にそれぞれの良さがあると感じています。

今現在の活動を具体的に教えてください。
久保 「ミセス」という日本のファッション誌で「ニューヨーク便り」を毎月連載しています。また、NHKの番組「ワールドスポーツMLB」でメジャーリーグの取材をして、日本向けにリポートをしています。

入社直後もスポーツを担当されていらっしゃいましたよね。
久保 入社して3年目に夜のスポーツニュースを担当していました。野球は当時勉強してだいぶ詳しくなりました。今、18年ぶりに野球の取材を楽しんでいます。毎月、ヤンキースの田中投手のインタビューをさせていただいています。

マー君、どんな印象でしょう。
久保 真面目な、好青年です。とてもいい方ですね。

日本と比べて、野球場は違いますか。
久保 ファンと選手の距離が近い感じがします。ボールパークも楽しいですよね。先日、今シーズンから全球場に導入された防護ネットのリポートを作ったのですが、距離が近いからこその臨場感とボールが当たる危険性が隣り合わせだということを痛感しました。

ボールパークの取材に、マー君のインタビュー、それこそニューヨークならではのお仕事ですよね。

◇ ◇ ◇

久保さんはモンテッソーリ教育の教員免許もお持ちです。アナウンサーであると同時に教育に従事されているイメージもあるのですが。
久保 もともとNHKのアナウンサーになったのも、教育テレビで、子供番組を作りたかったからなんです。日本版の「セサミストリート」のような番組を作りたくて、自分で企画して、構成を書いて、番組でMCをつとめることを目標に提案表を出していました。結果、NHKでは絵本の読み聞かせの番組を作ることができたのですが、その時も同時進行で、早朝4時のニュース番組や夜11時のニュース番組の担当をしていたので、日々の仕事に精一杯で、なかなか教育方面へ進む機会がありませんでした。結婚して子供ができた時に、やっぱり今の母親の感覚を大切にしながら子供向けの番組を作りたい、と強く思い、他でチャンスを探るべく、NHKを辞めるという大きな決断に至りました。

原点に戻ろう、と。
久保 「教育と言葉」というのは私の中に小さいころからありました。小学校の時、父の転勤でイギリスに行って、初めて英語と出合い、言葉を通して、世界のいろいろな人たちの価値観や文化を体得することができました。言葉が私という人間を作ってくれたと言っても過言ではありません。一人でも多くの子供たちに言葉の楽しさを伝えて、世界を冒険してほしい、体感してほしいとずっと思っていて、40歳になる時に、カリフォルニアでモンテッソーリの国際教育免許を取る学校に通い始めました。講習1年、教育実習1年かけてやっと免許を取得することができました。

丸2年かけたわけですね。
久保 はい。そうですね。1年間毎日、幼稚園で教育実習をしました。毎日行わないと子供の成長過程が見えないので。そして、毎月リポートも書いて、とても貴重な時間になりました。もともと母が英語教師だということもあって、教師を目指して、大学時代には中高の英語の免許を取りました。今後も、じっくりと子供の教育に携わっていきたいと思っています。

モンテッソーリ教育は、昨年、それこそ、将棋の藤井聡太四段(当時)でブームになりました。
久保 やったと思いました(笑)。ついにこのモンテッソーリメソッドが注目を浴びる!と。今、公立の保育園でも、モンテッソーリを取り入れる所が多いみたいですが、ヨーロッパでは高校までモンテッソーリの公立学校も多く、それが主流になっているようなのです。

モンテッソーリ教育の魅力はどういったところでしょう。
久保 例えば、椅子を使ったら、ちゃんと机の中に入れましょうとか、ゴミが落ちたら誰のものでも拾いましょうとか、日常生活で、相手を思いやるところからスタートします。私たちが幼い頃から言われていた他への気遣いや優しさがいっぱいモンテッソーリメソッドには詰まっています。日本人の気質に合っていると思います。

それを聞いただけで、すごくいいなと思いますね。
久保 子供って、ティッシュ箱からティッシュを永遠に出し続けたり、電気のスイッチをパチパチと何回もつけたり消したりしますよね。それは自然な流れで、脳が興味を持っているからやるんです。ついつい大人は「やめなさい!」と注意してしまいがちですが、それをずっとやり続けることによって、子供は満足し、満足することによって、他のものが見えてきて、次の段階を目指していく。満足度が上がることによって、心が幸せで満たされて、周りにも優しくなれるのです。一つ一つ段階があって、誰かのためにやるのではなく、ほめられるためでもなく、「自分のために」やる。そうやって、自分が生きていく力を養っていくという教材になっているのです。

一つ一つ段階を自分で満足しながら成長させていくことができる、と。
久保 子供が靴のひもを結ぼうと頑張るのを、私たち大人は30分でも待ってあげる。子供がやりたいと思うことは邪魔せずに見守る。先生たちもそういう姿勢なのです。30人くらいのクラスにだいたい2人の先生がつくのですが、子供たちは、「Please watch me do it myself」と言って、黙々と自分で手先を動かし、教材を「冒険」する。先生は近くにいて見守り、助けを求められたときに手を差し伸べるという役割で、教え込むということはないのです。

素晴らしいですね。アメリカの教育システム自体にはどういった感想をお持ちですか。日本とは全く違うと思うのですが。
久保 違いますね。子供たちの小学校や高校では、「親育てプログラム」が充実しています。例えば思春期の娘を持つ親向けには、コンピューターや携帯電話といったITとの付き合い方を学ぶ機会があります。子供たちをどうやってデジタルデバイス漬けの環境から救い出すか、いかにデバイスが中毒性を持っているかを親が学んで、それを子供たちと共有する。先日行った勉強会では、子供の脳の発達についての講演がありました。前頭葉が完成する時期は、女の子は24歳、男の子は28歳。そこでようやく自分でいろいろなことを判断できる年齢になる。それまでは間違った選択をすることも多いとのこと。そういったとき親はどう子供と向き合うべきかのレクチャーがありました。それからテレビ番組。例えばネットフリックスで昨年高視聴率だった「13Reasons Why」という自殺をテーマにした番組がありましたが、自殺を美化しているような内容で、親はどのように子供を架空の世界から現実に引き戻すかを勉強する会がありました。ありとあらゆる学びの場を提供してくれます。

アメリカならでは、な感じがしますね。日本だとまず、ない。
久保 アメリカの教育現場を見ていると、とても考えさせられます。高校生の娘と勉強について話をすることがありますが、どの教科も、しっかりと自分で考え、発表したり、ディベートしたり、リポートを書いたりすることを大切にしているのがよく分かります。ただ暗記して、テストのために勉強するという、私が受けた教育とはだいぶ違います。考える力を養うことができる授業が多いのはとてもうらやましいと思います。

学校だけに関しては、僕もアメリカの学校に子供を入れたいと思いますね。
久保 本当に自分で生きる力を築いているのだなということを痛感します。それに、いろいろ国の人々との出会いがありますよね。娘の友達もエストニアの子だったり、スウェーデンの子だったり、アメリカ人だけではなくて、世界中の人たちと出会うことができる機会があることが何よりも魅力的だと思います。様々な価値観や文化を体得できる、肌で感じることができるのは素晴らしい環境。ニューヨークに子供たちを連れてくることができて本当によかったと感じています。

うちの3歳の双子も、近所のプレールームでは世界中の子供たちと全く違う言語のまま普通に遊んでますね。
久保 いいですよね。そう、この間、次女にも「そのお友達の●●ちゃんは、どこから来たの」とか「肌の色は?」とか「髪の色は?」とか聞いたら「分かんない」と言うのです。

なるほど!
久保 そういうフィルターで全く人を見ていない。「国際人・世界人とはこういうことなんだ」と思いました。私などは、どこまでいっても、やっぱりいつも日本人のフィルターで物や人を見ていますが、娘たちはきっとそういう感覚がないのですね。

あと…3歳の子供を持つ親として個人的にお聞きしたいのですが、3歳の今、一番子供に必要なものはなんでしょう。
久保 親の愛情ですね! 子供たちには、幼い頃から思春期を迎えた今でも「愛している」という言葉をいつも声に出して伝えるようにしています。子育てには、正解がないので、いつも悩み、苦しんでいます。それは、一人一人、親も子も全員違うから。うちの子たちも、二人とも私から生まれて、同じように育ててきたはずなのに、性格も違えば、考え方も全く違う。接している人たちも違う。生きてきた環境も違います。こちらが正解と思っていることが、子育てでは必ずしも正解とは限らない。ですから、親として、どんな状況でも、いくつになっても、変わらず愛情をもって接するということが何より大切だと信じています。

この先の目標について教えていただけますか
久保 どういった方向に行くのでしょう(笑)。自分でも楽しみです。本当にいろいろなことに挑戦してみたい。まだやっていないことはなんでもやってみたいのです。こちらに来てからレタリングのクラスに通ったり、ジップラインに挑戦してみたり。興味の赴くまま、ありとあらゆることに挑んでいます。

ジップライン! やられたんですか
久保 ブロンクスでやりました。(近辺で)一番長いのがニュージャージーにあるそうなので、次回挑戦してみようかな、と。

…本当に楽しまれてますね…。
久保 はい!(にっこり) 今は探検の日々ですね。その中でコレというものが見つかれば、またモンテッソーリの時のようにとことんやるかもしれませんし、とにかくいろいろなものを体験してみたいです。でも、言葉に関わること、子供たちの教育については、これからも続けていきます。それは私の生き甲斐、ライフワークなので。

最後に米国在住の読者にメッセージを頂けますか。
久保 ニューヨークに来て思ったのは、やりたいと思ったら、いつでもチャレンジできる街だということです。例えばお母さんになっても、40代、50代、60代、いくつになってもチャレンジできる土壌がある。すてきな目標に向かって頑張っている人も周りにたくさんいて、ママになってから学校にもう1回戻って勉強されていたり、仕事をちょっとお休みして自分の趣味を充実させていたり。この街は、セカンド、サード、フォース…チャンスが無限にあって、いつだって“never too late”な街だと思います。皆さん、チャレンジのチャンスです(笑)。

確かに。あ、あとウチの社員に、久保さんの若さを保つ秘けつを聞いてこいと言われたのですが…。
久保 いえいえ、若くないです。何もしていません。特にこちらにいると、髪の毛は起きて寝癖をつけたままで娘の学校の送り迎えをして、常にすっぴんです。そういった意味では楽ですね。あっ、日本でもしてなかったです(笑)。ただ、娘の小学校の送り迎えは歩いています。毎日2万歩が目標です。ニューヨークの街を歩いて、見て、発見することが、元気の源かもしれません。

久保純子(くぼ・じゅんこ) 職業:フリーアナウンサー
1972年東京都生まれ。小学校時代をイギリス、高校時代をアメリカで過ごす。アナウンサーとしてNHKに10年間勤め、ニュース番組やスポーツ番組のキャスター、ナレーション、インタビューなど幅広く活躍。大みそかの人気歌番組「紅白歌合戦」や「プロジェクトX」などの司会も担当。2004年からフリーアナウンサーとして、テレビやラジオに出演する傍ら、絵本の読み聞かせや翻訳も手がける。日本ユネスコ協会連盟の世界寺子屋運動広報特使「まなびゲーター」を務め、2014年にはモンテッソーリ教育の教師の資格を取得するなど、「子ども」と「言葉」、そして「教育」をキーワードに活動の場を広げている。小学生と高校生の2児の母。現在は家族とともにニューヨーク在住。

〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。

(2018年8月25日号掲載)

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