【独占インタビュー】武田双雲

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BOUT. 311

書道家/現代アーティスト 武田双雲に聞く

書道を通し、世界に“道”を伝えていきたい

活動拠点を米国にも拡大のためNYへ

日本を代表する書道家、武田双雲。書籍を発刊すればベストセラーになり、大手企業からはメンタルを整えるワークショップの依頼が絶えない。そんな双雲さんが、人生を好転させていくマインドフルネスを世界に広げていくべく、北米進出に動き出した。今回、下見を兼ねてアメリカ各地に長男、智生さんと旅行に来た双雲さんをニューヨークで取材。アメリカに渡るきっかけ、この先の展望など話を伺った。 (聞き手・高橋克明)

テレビで双雲さんを拝見した際、“書”という和のイメージから最初はアメリカが結びつきませんでした。近い将来、活動の拠点をアメリカにも拡大しようと思ったのは、昨年の息子さんのアメリカ留学もきっかけになっていますか。

双雲 もともとは数年前から僕が直感でアメリカに行きたい!って思ったのが最初だったんですよ。でも家族は大反対だったんです。子供も3人いるし、その時は明確に行きたい理由も説明できなかった。そうこうしているうち、妻がいろいろとアメリカの教育のことを調べ始めたんですね。日本の学校だとクリエイティビティな子供ほど、やっぱり物足りなくなるんですよ。日本も素晴らしいんだけれど、クリエイティブなことに関しては、どうしても画一的というか、息子も不満を持ち始めて、不登校になったんです。

積極的不登校、ですね。

双雲 そう。中3の時。でも、それがきっかけで妻も息子も今度は俄然、アメリカに行く気に変わってきて。逆に僕がコロナが落ち着いてからにしようと言っても、息子は「行くって決めたから行く!」って、僕より全然、男らしくて。

息子さんの行動力、すごいですね…。

双雲 で、昨年1年間アメリカの高校に留学して、すぐに馴染んじゃって、結果、英語ペラペラになって帰ってきた(笑)。やっぱり勢いって大切だなって思いました。人間、待ってばかりいるとどうしてもネガティブになるわけですよ。英語喋れないし、とか、誰もオレのこと知らないし、とか、一からやるのって大変だし、とか。でも、今回の旅でも実際に来てみたら、ネガティブな気持ちなんて一発で吹っ飛びましたね。

今回、割とハードなスケジュールで北米の主要都市を巡られていますよね。

双雲 昨夜、サンディエゴからニューヨークに到着して、その前はLAで1週間くらい過ごして、明後日からまたサンフランシスコですね。今どこにいるのかわからないくらい(笑)。でも、今回の旅で、さらにアメリカが好きになっちゃいましたねえ。今までも、アジアからヨーロッパまで、世界中いろいろ行きましたけど、なんだろう…言葉にうまくできないですけど、好きなんですよ、アメリカの雰囲気が。人も街も、特に僕はカリフォルニアが好きなんですけれど「合う」としか言いようがないですね。

好きな感情はなかなか言葉にできないですよね。

双雲 恋に落ちた感覚に近いかもしれないです。最初は家族を説得するために、僕も世界を志したい、地球全体で活躍できる男になるにはやっぱ最高峰のアメリカに行かないと…とか言ってたんですけど…でも、後付けですよね。要はカリフォルニアが好きになっちゃったんです。本当の理由は単純に、カリフォルニアにフォーリンラブっていう。(笑)

言葉にできない魅力を、あえて言葉にするとなんでしょう。

双雲 なんだろう…アホっぽい答えですけれど「Hi〜!」がすごく好きなんですよ(笑)。すれ違う人みんなが「ハァ〜イ!」っていう幸せ…ていうのかな。カリフォルニアそこら中、「Hi〜!」って。彼らにとっては当たり前なんだろうけれど、あの挨拶の明るさが僕は大好きなんですね。

わかる気がします。日本ではあまり見ない光景かもしれないですね。

双雲 今回、LAで近所の人たち「こっちに引っ越すことになりそうなんだ」って言ったら「Congratulations !(おめでとう!)」って言うんですよね。おめでとうって。(笑)

日本ではないですね(笑)。昨年の息子さんのアメリカ留学が、双雲さんのアメリカ移住をより現実的にした感じですね。

双雲 ホント、そう。先に“鉄砲玉”として行ってくれて、リスクを回避してくれた(笑)。やっぱり自分の中にもいるんですよ、弱気になる自分もくよくよする自分も。50(歳)手前で今から?って怖い気持ちもあったんですけど、息子の(成功体験の)おかげで、やっぱり行きたいって気持ちが勝っちゃいました。(笑)

武田双雲さんが描き下ろした書をインスピレーションに、ヨウジヤマモトの物作りのDNAを受け継ぐブランド「Ground Y-グラウンド ワイ-」とコラボしたコレクションを身にまとい=ニューヨーク、2022年12月下旬

武田双雲さんが描き下ろした書をインスピレーションに、ヨウジヤマモトの物作りのDNAを受け継ぐブランド「Ground Y-グラウンド ワイ-」とコラボしたコレクションを身にまとい=ニューヨーク、2022年12月下旬

アメリカの教育を実際に体験している分、智生さんの話を聞きたい日本の親御さん、かなり多いと思います。(息子さんに向かって)1年間のアメリカ留学という貴重な体験はやっぱり代え難かったですか。

智生  すごくいろんな人種がいる世界だなって感じでした。それでいて、そこに「壁がない」。そこが自分はすごく好きで。どんな人種で、どんなバックグラウンドで、どういう血筋でっていうのをみんなまったく気にしてなくて、全員が同じ人間だよねっていう世界が心地よかったです。

双雲 どこかでみんな日本の教育が、これで完璧、とは思ってないですもんね。だからと言ってアメリカの教育のどこがいいのかも具体的にはわからない。成績だけは日本人、いまのままでもいいわけで。

智生 確かに、アメリカの高校では、掛け算ができないクラスメイトもいました。英語のグラマーもぐちゃぐちゃだったり。

アメリカ育ちなのに(笑)。偏差値的には日本の方が平均的に高いですね。分母の小ささも関係してるかもしれませんが。

双雲 それでもやっぱりお子さんをこっち(アメリカ)の小学校に通わせてよかったですか。

教育に関してはそうかもしれないです。父親参観に行った際、ベタな意見ですが、いわゆる詰め込み教育ではない。「あなたは何がしたいの」「どうしたいの」とそれぞれの意見を先生が聞いてくれていたので。

双雲 うわー。それだけでもいいよねえ。

日本の給食時のように「いーただきーまーす」の号令と共に、一斉に同じものを同時に食べるシステムもないですし。

双雲 バラバラと言えばバラバラだけど、自分が何をしたいか、何を考えてるかを重要視してくれる。うーん…日本とはいろいろと真逆ですね。

だからと言って、下校時、先生に「よくできたわね」とご褒美で砂糖の塊のようなクッキーを手渡されます(笑)。どこから見ても身体に悪いだろうなジャンクフードを平気で食べさせる面もある。

双雲 わはは。どっちもどっち(笑)。でも、それさえ除けば、やっぱり自由な方がいいですよね。クラブハウスで話す、アメリカで子供に教育を受けさせたお母さんたちは、みなさん例外なく「よかった」って言うんですよ。残念ながら教育に関しては日本は不自由なことは多いと思う。同じ型にハメるというか。

うちの子供たちがクラスメイトの話をする際、ついつい僕は悪い癖で「金髪の子?」とか「ブルーアイのあの子?」とか聞いちゃうんですよ。でも、彼らはわかってない。エマはエマで、イーサンはイーサン。違いを違いと思ってないので、そういうフィルターで友達を見てないんですね。

双雲 いやぁ…そんな話を聞くと泣きそうになっちゃいますね。心がすっごい癒やされます。違ってもいいんだ、本当の自分の意見を持っていいんだって。やっぱりオレ、日本で苦しかったんだなぁ…どこかで無理や周囲と合わせてたんだなぁって。自分の意見を言っていいんだなって。

むしろ言わなきゃダメみたいです、この国。(笑)

双雲 そう考えると「武田双雲、よく日本で頑張ってきたな」って思うんですよね(笑)。小学校(時代)から、どうしてみんなと同じ色で塗らなきゃいけないのって思っていて。ザリガニの絵を書く時に、みんなザリガニ書くんですよ。みんな同じような色で、同じような形で。僕は赤は赤でも深い赤や淡い赤で塗ったんです。そうしたら先生に「違うだろ」って怒られて。

わははは。確かに双雲さん、よく日本で頑張ってきたな、ですね。

双雲 でしょう! だからつらかったです。なんなんだろうこのつらさって…。アメリカに来たときに感動するのは、多分そこなんだと思います。オレ、多分、ずっとつらかったんだなって…、『ポジティブの教科書』とか出してる場合じゃなかった。(笑)

僕も20年前にNYに来たとき、急に肩こりがなくなりました。

双雲 そうですよ。失礼だけど、高橋さんも絶対に“こっち”だって思ったもん!(笑)。以前、ニューヨークでずっと働いていた人と会って話す機会があったんですよ。何年か銀行員として働いてたらしいんですけど、日本に帰ってきてびっくりしたのは、意見をしただけで怒られたらしいんです。主張ではなく、こう思いますって言っただけで怒られたって。

もう…同じ星じゃないですね。

双雲 違う惑星の話(笑)。別に戦ったわけでも、プレゼンしたわけでもなく、ただ、イエス、ノーと思ってること言ったら怒られた(笑)。僕自身、日本のサラリーマン時代も、何か言ったら生意気だって言われました。

何も生意気なことを言ってないのに(笑)。でも、アメリカはアメリカで資本主義競争が日本以上で、そこにまた違うストレスもある気もします。

双雲 そうですよねー。人類はIT革命以降、便利になった分、ある意味どんどん世界が「狭く」もなっていると思う。あらゆる情報の中にはネガティブなものも混ざっていて、心の平穏が保ちにくくなっていると思うんです。ネットの情報は人種も国境も超えて、その分ノイズも不安も広がっていく。僕自身も人間なので、その影響を受けることもあるんですが、そういったものに、今まで学んできた書道で「感謝の気持ち」とか「丁寧に生きる」をカウンターで当てていきたいなと思うんです。

なるほど。

双雲 ニューヨークやカリフォルニアの人たちのバリバリのサクセスストーリーの裏には、マインドフルネスが絶対、必要なはずなんですよ。

確かに、お金はあっても、心の平穏が少ない人は多いかもしれないです。ニューヨーカー、やたら緑を求めてセントラルパークに行きたがりますし、街中にヨガスタジオが乱立してますし。絶対、需要ありますね。

双雲 空を見上げてる時間がないっていうのは、東京と同じですよね。そういった人たちに心を整えた状態をガチャって差し込みたい。そうするとお金持ちになっても、ならなくても、もっと心が豊かになると思うんですよね。カリフォルニアに教室を作っても出張でできるし、全米中でできると思っているんですよ。日本でも、もう何年くらいやってるんだろう。日本を代表する様々な名企業の方々が、僕のマインドフルネスワークショップを受けてくれてるんですね。なので、こっちのビジネスリーダーたちにも伝えられるものはあると思っています。

日本での活動をそのまま持ってきていただきたいです。

双雲 今回の旅で決まったのは、ちっちゃくてもいいからまず書道教室を始めること。やっぱりスタートはホームを持つことが大事だと思って。もちろん書道の伝統的な技術も教えるけれど、どちらかというとやっぱり僕はマインドフルネスを伝えていきたい。武士道から約100年経つので。

運命を感じちゃいます。

双雲 すでにこの国で、こんまり(近藤麻理恵)ちゃんが「片付け道」をやってくれていて、大谷翔平選手も「野球道」を実践してくれている。日本って、世界から見てマイナスなイメージもあるかもしれないけれど、やっぱり尊敬されている部分も多いと思うんですよ。日本文化って不思議なリスペクトがあると思うんです。アニメもトヨタもソニーも、個人から企業に至るまで。その根本にあるエッセンスを僕は広げたいんです。

書道家として。

双雲 そう。今まで書道を通して、学ばせてもらって、生きてきた。日本の言葉にできない“道”みたいな部分。それをアメリカの人に、世界の人に伝えたいって思いがすごく強いんですね。

 

ワクワクします。それでは在米の日本人読者に向けて、メッセージをいただけますか。

双雲 今、時代的に日本人がかなり弱っちゃってると思うんです。なので、僕も含めて、ぜひこの国に住んでいるみなさんが活躍して日本人のすごさを見せつけてやりましょうって感じですね。やっぱりこっちの人がキラキラすれば、日本の人も海外に行きたいってなると思うんですよ。人ってキラキラしてる方向に向かうものだから。別にアーティストとかじゃなくても普通の、それこそ主婦の方でもこっちで幸せを掴めば、それでサクセスだと思うし。みんなで日本人の誇りを取り戻したいなって思います。

最後に、カリフォルニアが好きな双雲さんですが、ここニューヨークに関してはどんな印象をお持ちですか。

双雲 ダントツに感じるのは、ぐちゃぐちゃなエネルギー(笑)。世界中からぐちゃぐちゃのエネルギーが集まって、さらにぐちゃぐちゃになってる感じは世界でもダントツじゃないですかね。なんだろう…強さ、って言ってもいいのかな。経済、金融を含めて圧倒的な強さを感じます。ギラギラしていて、活気とエネルギーに満ちていて…なにか、もう、新しいものが生まれる可能性しかない。そんな街だと思いますね。

武田双雲(たけだ・そううん) 職業:書道家、現代アーティスト
1975年熊本県生まれ。東京理科大学卒業後、NTTに就職。約3年後に書道家として独立。音楽家、彫刻家などさまざまなアーティストとのコラボレーション、斬新な個展など独自の創作活動で注目を集め、映画「春の雪」、「北の零年」、NHK大河ドラマ「天地人」をはじめ、世界遺産「平泉」、スーパーコンピュータ「京」、「美空ひばり」など、数多くの題字、ロゴを手がける。また、フジロックフェスティバルや、ロシア、スイス、ベルギー、ベトナム、インドネシアなど、世界中から依頼を受け、パフォーマンス書道、書道ワークショップを行うとともに、2013年には文化庁から文化交流使に任命され、日本大使館主催の文化事業などに参加。海外に向けて日本文化の発信を続けている。19年には、元号改元に際して「令和」の記念切手に書を提供。近年は現代アーティストとして創作活動を行い、スイスのArt Zurich、VOLTA BASEL、ドイツのGallery Duruduru及びArtriun Birnbachなどに出展。代官山ヒルサイドフォーラム、三越・大丸松坂屋百貨店・GINZA SIX・伊勢丹などでも個展を開催している。著書は、ベストセラーの『ポジティブの教科書』(主婦の友社)をはじめ、『波に乗る力』(日本文芸社)、『丁寧道 ストレスから自由になれる最高メソッド』(祥伝社)ほか多数。
【ウェブ】https://souun.net

(2023年1月14日号掲載)

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〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、1000人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。

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