矢野顕子(4)/上妻宏光(2)

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日本ではなくアメリカという土地だからこそ実現した共演だと思う(上妻)

「ガチ!」BOUT. 187・188 

 

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“津軽三味線の伝統と革新”を追求し、第二次津軽三味線ブームの火付け役となった津軽三味線奏者・上妻宏光さんと、青森で幼少期を過ごし、多数のコラボレーションやジャンルにとらわれない活動で人気を博したピアニスト・矢野顕子さんが9月、ニューヨークのジャパン・ソサエティーで共演した。海外での公演経験豊富な、お二人に、今回の共演についてお話を伺った。(聞き手・高橋克明)

 

初共演したNYライブ

本番数時間前ですが、すでにリハーサルもやられて、

矢野 はい、もうバッチリです。

上妻 でも、初共演だとリハーサルと本番はまた違う空気だったりするので、実はそのあたりもすごく楽しみたいと思ってます、はい。今回は基本的に民謡という物をテーマに矢野さんと初共演できるので、ニューヨークの皆さんに聴いていただけるのはすごく楽しみでもあります、はい。

矢野 なんか政治家みたいな言い方。(笑)

一同 (笑)

上妻 記憶にございません。(笑)

矢野さんはいかがでしょう。

矢野 楽しみよ、スゴく。だって、もう4日間、寸暇惜しんでやっておりましたから、はい。

お二人にとって、いわゆるセッションとかコラボっていうことに関しては専売特許というか、非常に経験が多いですよね。なので、簡単なのかなって勝手に想像しちゃって…。

矢野 でも実際にお会いして、実際に音を出さないと。もちろん、前もって上妻さんがどういう演奏なさるとかはCDを頂いて聴いてはいましたけど、一緒に演奏するってことは、結局その人と会話するってことだから。

なるほど。

矢野 でも逆に言えば、いったん音を出しちゃえば、だいたい分かりますよね。この人はどういう感じかな、みたいな。それでいける! って思ったら絶対いけるんです。

今回も、いける。

矢野 もちろん。

上妻 僕は前々から矢野さんの大ファンだったので共演できること自体、ものすごく幸運というか、うれしいことでもあるんですけれど、でも、やっぱりそこはステージに立ったら、年齢やキャリアは関係なく、いちアーティストとしてぶつかりたいと思いましたし、まぁ、胸を借りるつもりでステージで遊ばせていただけたらなって。だから、一緒にリハーサルしてても何か、こう大きな船に乗ったような感じがあってですね。ものすごく安定感というか、安心感がありますね。

1115-gachi-side_DSC07371逆にプレッシャーは感じませんか。

上妻 まぁ、ないと言えばウソになるんですけれども。でも、そこで僕が遠慮して引いちゃったら、それも矢野さんが感じられると思うので、そこはやっぱりぶつかっていこう、と。あとは、例えば僕が構成やリストを忘れてしまったら、そこは矢野さんの経験でパッと、もう、あたかもその通りのような感じで矢野さんがヘルプしてくれるでしょうし(笑)。ポイント、ポイントはそのキャリアやセンスや才能が出ると思うので。

素人の僕からすると、ピアノと三味線のコラボって斬新というか…。

矢野 面白いんじゃない? 楽しいですよ。もちろん、三味線なら誰でもいいってわけじゃなくて、上妻さんの出す音ならってことで、たまたま上妻さんは三味線を弾く方で、彼が三味線を通じて出してくれる音が面白いってことなんですけど。

上妻さんは、昨年6月にも場所も同じ、このジャパン・ソサエティーで、ケニー・遠藤さんとの和太鼓のコラボでもやられました。あの時もセッションで観客のニューヨーカーを魅了されてました。

上妻 (ジャパン・ソサエティーの)やっぱり発想というか企画がものすごく面白いですし、トラディショナルからいろんな物にアレンジされたりとか、古典からちょっと派生したようなプログラムもあるので、ニューヨークにお住まいの日本の方も、今の日本の音楽の現状を知るという意味では貴重な体験ができるのではないかと思います。

実はその時のコンサート、矢野さんの隣の席で僕も観ていまして…。

矢野 そうだったねー(笑)。楽しかったね、あれね。

上妻さんは矢野さんが観客席にいたことを知ってらっしゃったんですか。

上妻 いや、公演後にごあいさつにお越しいただいて、ステージ上からは、もちろん分からなかったんですけど、コンサート後にちょっとお話させていただいて、はい。

コンサート終了時、矢野さんはスタンディングオベーションされてました。

上妻 そうですか、それは(共演の)ケニー(遠藤)さんの太鼓も素晴らしかったですし。でも、うれしいですね。

お二人の共通点としては世界でも、多くの公演をされてらっしゃることですが、日本での公演時と何か変えてらっしゃることはありますか。

上妻 基本的には変わらないですね。

矢野 うん…。一緒かなぁ。曲目をその日に合わせて、例えば、今日はアメリカ人のお客さまもたくさんいらっしゃると思うので英語の曲を多くしたりとか、そういう配慮はしますけど…。出すもの(曲)は一緒なので、基本、変わらないですね。

もう一つの共通点としては、東北、ということもあるのではないか、と。矢野さんは青森育ちですし、上妻さんは津軽三味線をされてるわけですから。

上妻 二人でやる意味や二人の思いの一つが津軽であることは間違いないし、一つの共通点ではあると思うのですが、他の県の民謡も歌うし、それだけに縛られたくはないですね。

ジャパン・ソサエティーのライブの模様=9月27日、ニューヨーク(© Ayumi Sakamoto)

ジャパン・ソサエティーのライブの模様=9月27日、ニューヨーク(© Ayumi Sakamoto)

コンサートに来られるお客さんに伝えたいことは何でしょう。

矢野 この二人でしかできない音楽を作っておりますので、私たち自身が楽しんでますから(笑)。それをそのまんま、皆さんにも楽しんでいただけたらなぁと思いますね。

上妻 日本ではなくてアメリカという土地だからこそ、矢野さんとの共演も実現したと思うんですね。なので、時差ボケと戦いながら(笑)頑張れたらなって思います。

時差は苦手ですか。

上妻 ダメですねぇ。(笑)

東京とニューヨークを行き来する矢野さんから時差対策のアドバイスはありますか。

矢野 もう、ね、時差はあって当然と思ってますんで、無駄な抵抗はしないってこと。(笑)

 

★ インタビューの舞台裏 → ameblo.jp/matenrounikki/entry-11935130198.html

 

矢野顕子(やの・あきこ) 職業:シンガーソングライター&ピアニスト
青森市で過ごした幼少時よりピアノを始める。1976年「JAPANESE GIRL」でソロデビュー。90年ニューヨーク州へ移住。音楽制作の拠点をマンハッタンに移した後は、世界的なアーティストとの共同制作を行う。米国ではNonesuchレーベルからコンピレーションアルバム「AKIKO YANO」(90年)をはじめとして3枚をリリース。日本では現在までに31枚のオリジナルアルバムを発表。公演活動は、米国ではニューヨーク・パブリックシアター内のジョーズ・パブで定期的に公演を行っており、日本では帰国コンサート「さとがえるコンサート」を毎年秋の恒例公演にしている。公式サイト:www.akikoyano.com

上妻宏光(あがつま・ひろみつ) 職業:津軽三味線プレーヤー
1973年茨城県出身。6歳から津軽三味線を始め、幼少のころより数々の津軽三味線大会で優勝する。ジャズやロックなどジャンルを超えたセッションで注目を集め、2001年に「AGATSUMA」でメジャーデビュー。同アルバムは「第16回日本ゴールドディスク大賞 純邦楽アルバム・オブ・ザ・イヤー」を受賞。06年、2ndアルバムが、Domo Recordsより全米リリースされ、米東海岸ツアーを実施。日本を代表して演奏を披露するなど、新世代津軽三味線の第一人者である。また日本全国の小学校において日本の伝統音楽の魅力を伝える授業を行っており、次世代への文化伝承にも力を注いでいる。公式サイト:agatsuma.tv

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矢野顕子トリオNYC公演

1115-gachi-AkikoYano_ph20142015年1月13日(土)
矢野顕子トリオのニューヨーク公演が1月31日、イーストビレッジにあるJoe’s Pubで行われる。ピアノとボーカルを矢野さんが担当し、ベースとボーカルのウィル・リーさん、ドラムのクリス・パーカーさんと共演。5年目となる同公演は70年代からの矢野さんの良き友人でもある、ウィルさんとクリスさんとのニューヨーカートリオで行われる。今回は今年3月に日本で発売となった最新オリジナルアルバム「飛ばしていくよ」に収録されている曲も演奏予定。
■概要【日時】1月31日(土)午後7時半〜(開場:午後6時)
【会場】Joe’s Pub NYC
【場所】425 Lafayette St(bet E4th & Astor Pl)
【チケット】35ドル(全席指定)
予約】www.goo.gl/raARqi
【ウェブ】joespub.com
【問い合わせ】212-967-7555(Joe’s Pub)

 

〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。

 

(2014年11月15日号掲載)

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