〝日本文化〟って実はイケテル。そこに気付いてもらえたら
〈リアル〉File 15
12年にわたり、オフブロードウェイの人気作品「STOMP」に出演し続けるパフォーマーの宮本やこさん。幼少時に和太鼓に慣れ親しみ、学生時代にはストリート、ヒップホップダンスに没頭。全ての経験が、ニューヨーク渡米直後に花開いた。数々のパフォーマンス大会で賞を獲得し、自身がモデルとなったハリウッド映画も制作されるなど宮本さんの進撃は止まらない。2000年に独特な和洋折衷のビートの世界を表現するライブリズムパフォーマンスグループ「鼓舞」を創立し、振り付け師としても活躍する彼女に、来月公演する「鼓舞」の舞台についてなど、お話を伺った。
自身創立の「鼓舞」がNY公演
―オフ・ブロードウェイで一番人気の「STOMP」に日本人でメインキャストとして10年以上ステージに立つ。常識では考えられないすごさです。
宮本 どのブロードウェイショーもそうかもしれませんが、STOMPもキャストがクビになる確率は高いショーですね。最初にオーディションを受けて「Welcome to STOMP family !」っていう電話がかかってきた時点で、もう舞台には立てると思うじゃないですか。で、楽しみにリハーサルに行ったら、2週目には8人が6人になってる。ゾッとしました。本番前の6週間のリハーサル期間でもどんどん落とされていくんですよ。結果、オープニングを迎えて舞台に立てるのは3人になって、初舞台踏んだとしてもその1週間後に切られてしまうキャストもいたりして、すごいところだなぁと。
―うーん、言葉にならないですね…。
宮本 本当にビックリしました。私は普通の理系学生からショービズの世界に飛び込んだので、あまりの異世界っぷりに軽く衝撃を受けました。あと、日本だとクビにしちゃうと代わりがなかなかいないけど、こっちだと次から次へ来る。エンタメを目指す層が厚いんですね。主役級をやってた人も、ちょっとだらけてるかなと思ったらいきなりクビになったり、何回もゾッとさせられました。すごいところに入っちゃったなーって。
―でも、そこで10年。そのポジションを死守するだけでもプレッシャーですね。
宮本 うーん、死守したって感覚はないです。いつも、納得いかない自分の技術と戦ってたから、首にならないためのプレッシャーは感じる暇もなかったです。一つのパフォーマンスをとっても「ここ、できてないよな」ってところが必ずあるので、守りに入る余裕がなかった。何かを守ってた人は逆に怖いと思うんです。「STOMP」に入ることが夢だった人は、メンバーになった途端、守りに入っちゃうから、次のオーディションが怖いって言うんですよ。私にとっては「STOMP」のステージに立つことはゴールじゃなくスタートだったから、まだ何かを「守る」ってところまでいけてなかったんだと思います。這(は)いつくばって、がむしゃらにもがいてた10年だった気がしますね。(自分のいるべき場所が)どこなんだろうって、何かに挑戦する気持ちの方が強かったですね。
―その一つがご自身がプロデュースする「鼓舞(COBU)」だと思うのですが、今現在、「STOMP」と「鼓舞」は、どちらの比重が重いでしょう。
宮本 「鼓舞」ですね。「STOMP」は大好きだし、一人のパフォーマーでいられるから楽しいし楽だし、ステージは用意されてるので自分のやることだけを考えればいいし。でも「鼓舞」は、自分で一から用意しないと何も始まらない。メンバーも、STOMPのように一流パフォーマーが各地から集まってるわけじゃないので、育てる時間もかなりかかります。最初は、こりゃ大変っと思ってましたが、1年2年とやってるうちに成長過程が見られるって、もしかしたらぜい沢なことなのか? と思い始めてきて、鼓舞は自分の子供みたいな感覚って言ったら変かな、皆さんからいろいろと批評されますが、わが子は出来が悪くてもかわいい(笑)。メンバーは家族で私はお母さん、いや、お父さん的な役割かな。もちろん「STOMP」の方も、365日一緒にやってきた仲間は家族なんですけど、私は「末っ子」みたいな感じである意味甘えられる。今は、鼓舞が忙しくてSTOMPの出演は断ってるんですけど、STOMPも鼓舞も両方大好きな家族です。鼓舞の子供たち、この10年ですごく育ってきてますよー。
―「鼓舞」は日本人女性が中心でメンバー構成されていますが、そこは宮本さんのこだわりが…。
宮本 (さえぎって)実は、全然こだわってないんですよ。昔は男子メンバーもアメリカ人もいたし、オーディションやクラスは男性もたくさんいるし、国際色も豊かなんです。で、オーディションでも性別や国籍関係なく審査して、最後に「あれ、結局、日本人女子しか残ってないねー」って。なんなんでしょうね、この日本人女性の強さ。それ以上の強さを持った男子や多国籍パフォーマーがいたら、ウエルカムですよ。
―確かにこの街は女性の方が強い気がします。(笑)
宮本 それに、ヘンな言い方ですけど(この街自体)日本各地から型にはまってないコたちが集まってるじゃないですか。うちの場合、その中でもダンサーやパフォーマーが来るから、みんなアクが強い…(笑)。面白いですよ、うちのカンパニーのメンツ。
― 47都道府県のお調子者の選抜集団(笑)。大変な苦労も伴いますよね。
宮本 でも一緒に成長していく楽しさの方が大きいかな。ニューヨーク(の日本人社会)は入れ替わりが激しいじゃないですか。鼓舞はその割にはパフォーマーの入れ替わりが少ないカンパニーだねって言われます。(外国人の集団としては)本当に珍しいらしいです。1年、2年で入れ替わるところも多い中、うちは“10年選手”も多いし。
―その中でNBA(米プロバスケットボール協会)のハーフタイムショー出演を実現したり、日本凱旋(がいせん)公演をなさったり、どんどん活動を広げてらっしゃいますよね。
宮本 カンパニーに入ったら、まずメンツに聞くんです。「さて、せっかく鼓舞に入ったんだから、ここでしたいことは何?」って。NBAの時も、うちのバスケ好きなメンツがずっと「やこちゃん、ハーフタイムショーに出たい!」って言うから「そんなに好きならトライすっか」って。新人君たちに「何が夢?」って聞くと「お父さん、お母さんに見てほしい」とか「地元に凱旋したい」って言うコが結構多くて。「じゃあ、ジャパンツアーやろうか」みたいな。いつもそんな感じでスタートしてます。
―そして今回は久しぶりの単独公演になります。
宮本 そうなんです。最近は、コーポレートのショーや、フェスティバルのゲスト、各州へのツアーなど、外部から依頼を受けたパフォーマンスをすることが多くて、自分たちが自分たちのためにプロデュースする単独公演は5年ぶりですね。
―どんなステージにされたいでしょう。
宮本 自分が観客だったら「こういうの見たいよな」っていうステージをやりたいんです。でも、なかなか形にするのは難しい(笑)。でも、来ていただいた方に、元気になったとか楽しい時間だったなって思って帰ってもらえればうれしいです。何年やっても、まだ形にできないことはいっぱいある。でも、きれいに舞うコがいたり、うまく歌うコがいれば、それを生かした方向へ曲をシフトチェンジしながら、このメンバーで今何ができるかを模索しています。
―なるほど。
宮本 公演に来ていただいたら、「自分のお気に入り」を見つけてほしい。ひょっとしたらアメリカ人のお客さんからしたら日本人の顔がみんな同じに見えて「なあんか、いっぱいステージに出てたな」ってなっちゃうかもしれないじゃないですか。なので、うちはメンバー全員カラーを持ってるんです。私は赤レンジャー。「オレ、ピンク好きだった」「いやー、黄色でしょ」って話をしながら帰ってほしい。メンバー10人それぞれに光る箇所があるようなステージにしたいと思ってます。
―観客もステージ上に感情移入できるような。
宮本 傍観者にはさせたくないです。お客さんも巻き込んで一緒に楽しんでもらえるような構成にできれば。
〈公演情報〉ライブリズムパフォーマンスグループ「鼓舞/COBU」が10月3日から3日間にわたり5公演を行う。 ■概要【日時】10月3日(金)午後9時半、10月4日(土)午後3時〜、午後9時半〜、10月5日(日)午後2時、同5時半〜 【会場】Theater for the new city 【場所】155 1st Ave(bet 9 & 10 St) 【料金】前売り20ドル、当日25ドル 【ウェブ】www.cobu.us/top.html |
―ステージ上から観客の反応って分かるものですか。
宮本 日本の(パフォーマーの)方で40年以上舞台に立って1500回公演って報道される方もいますけど、私はこの12年で3000回以上(STOMPで)ライブパフォーマンスをする機会をもらっているので、(観客席を)見てないように見えて(お客さんの顔は)けっこう見えるようになりました。寝てる人もノリノリの人も、ちゃんと見えてます。同じ日に同じ演目やっても、お客さんによって全く違う反応の場合もあります。リピーターもいるとは思いますが一生に一度の観劇というお客さんも多いから、「今日はあまりいいショーじゃなかった」なんて言い訳は絶対しちゃいけない。劇場まで足を運んでくれたお客さんみんなに、「楽しかったな」「来てよかったなぁ」と思って帰ってもらいたいなぁと思います。
―「鼓舞」を通じて伝えたいことはなんでしょう。
宮本 自分も10代のころそうでしたけど、若いコの中では日本伝統文化ってちょっとムリって感じてる節もあるじゃないですか。「和太鼓とか、ナイナイ」みたいな。そういうコたちが、「いやいや、日本文化なかなかカッケェよ」と思えるようなショーができれば。私は気付けてうれしくなったので、日本文化ってプラウドできるんだよ、結構カッケェべって気付いてくれたら。日本を飛び出してニューヨークで何かを実現しようとしてる、そんな人たちにはまず自分が育った日本って実はかなりイケテルんだよってところを最初に思ってほしいなぁ。
―そういえば、ご自身がモデルになった映画が昨年公開されましたが、観られましたか。
宮本 一応観ました。でも、その映画の話は、最初に監督がコンタクトしてきてからそれこそ7年くらいずっと制作段階にも関わってきて、最初に上がってきた脚本と、ファイナライズされた脚本が違い過ぎて、え、これ自分の話? って。だから観てても人ごとというか、そこまで深くは感慨は沸かないかもしれないです。
―何か…人ごとですね(笑)。僕だったら自慢しまくりますけど…。
宮本 (笑)。ロスの制作発表の時に、宮本やこをモデルにしたって発表されちゃったが故に、映画を観た人に「やこちゃんは白人のダンサーと駆け落ちしたの?」って言われたりして。してないしてない(笑)。やっぱりエンタメですから、大衆受けするようなドラマチック仕立てにしなきゃいけないんでしょうね。ちなみに、銃撃戦に巻き込まれたこともないです。私はもう自分のストーリーとはかけ離れた違う作品として観てます。
―僕だったら、もう、銃撃戦に巻き込まれたことにしちゃいます。
宮本 あはは。あの時、弾当たりそうでさーって。(笑)
―全米の映画館で上映される本編前のドルビーサラウンドのCMにも出演されてますが、実際に劇場でご覧になられたことはありますか。
宮本 (館内に入って)座って隣の連れとコーラ飲みながら話してたら、もう一人の連れに反対側からパンってたたかれて、「お前、出てる、出てる」って。「あ、ほんとだ。」みたいな。
―人ごと(笑)。タイムズスクエアのビルボードにも初めてアジア人単体として登場しました。その時も人ごとでしたか。(笑)
宮本 実際に目にしたときは、さすがに(現場で)少しの間立ち尽くしました。2000年に同じ場所に立っていろんな看板を見上げながら、周りの人たちから大反対されてもエンタメやってみようと自分で決めたんなら、あんな看板になるくらいまでは「やれよ、YAKO」って思った自分を鮮明に思い出しながら、ちょっとの間、ぼーっと立ってました。
―しかもタイムズスクエアで、あのサイズですから。
宮本 なんか我武者羅にやってたらこんな風景が見られる日が本当にくるのかぁって。まぁ、実は、友達に言われるまで気付かなかったんですけど、ね。
―やっぱり人ごと(笑)。オフ・ブロードウェイの主役にもなって、映画のモデルにもなって、タイムズスクエアの看板にもなって。パフォーマーとしてはやり尽された感があると思うのですが、宮本さんの今後の目標は何でしょう。
宮本 目標は自分で自分に「今日は最高だったね」って言えるくらいのパフォーマンスをすることだったんです。それはずっと変わってないです。もちろん、お客さんにすごい褒めてもらうことも、めっちゃ高い評価をもらうことも表面はうれしいんですけど、その日が自分で納得いってない日だったら素直に喜べなくて悲しい気分になります。逆に、自分で納得できることができた日は、めっちゃ晴れやかで幸せな気分になる。あ、自己満足なのかな、これ。例えば何年も何年も練習してるのに、どうしても満足できない箇所があるんですよ。そこが“ガンっ!”てできた時に「あ、来た!」っていうあの感覚。それは90分間のうちの3秒だったりするけど、お客さんの誰にも理解してもらえないかもしれないけど、その感覚をもう1回味わえるならステージに立ってる意味があるのかもって思ってしまいます。実際は、今は自分がステージに立つことより、いろいろなタイプのパフォーマーを生かしながらいい曲や作品を出していくことの方に、喜びを感じてるんですけどね。
―でも欲さえあれば、確実にもっとメジャーになってましたよね。「成功」や「名声」には本当に興味ないって見えます。
宮本 聖人じゃないんで、違う欲はいっぱいありますよ。おいしいチョコ食べたいとか(笑)。でも、仕事で「大成功した」ってポジションに、でんっと座ってる自分はなんか想像しにくい。「STOMP」をやり続けたら名声も生活も安定し続けたかもしれないんですけど、それだと人生楽しかったって最後に言えるか分からない。人の物差しで動くと自分を簡単に見失うし、失敗を人のせいにしてしまったら前に進めなくなってしまうから、「自分がやりたいと思えたことを見つけたら世間の価値と違う方向でも進んでみよう。それで失敗したらそれも私らしい人生」って思うことにしてます。その結果、「あら、失敗」みたいなこともたーくさんありましたけど、自分のせいにできるから言い訳せず笑ってやり直せる。周りに反対されてもくじけない自分がいたのは、見てる何かがあったから。だから、やりたいって思う事がなくなるのは、日々の意味を見失いそうで怖いかもしれません。友人からしたら、世間の評価が低い道を選んでるように見えるらしいですが(笑)。まぁ、最期に、なんだかんだハッピーだったねって、ポクって逝けたらいいなって。
―ポクって逝った後、生まれ変わったら、もうニューヨークでパフォーマーにはならないですか。(笑)
宮本 うーん、同じことするのはもったいないかなぁ。次は違う人生をやってみたい(笑)。パフォーマーとして、やりたいことは今回の人生でやれるだけやったので。次はまた違う分野で違う思いをいっぱい感じながら、新しいことをやりたいなって思います。でも、何をするにしても…。
―するにしても?
宮本 多分…また這いつくばってるんだろうな。(笑)
★ インタビューの舞台裏 → ameblo.jp/matenrounikki/entry-11907628077.html
〈profile〉宮本やこ(みやもと・やこ) 職業:パフォーマー
重低音ビートにひかれ8歳から和太鼓の音に興味を持つ。慶應義塾大学理工学部在学中、物理実験のかたわら重低音系サウンドを求めストリート、ヒップホップダンスを始める。1999年、BEATがうなるTAPを学ぶためにニューヨークに渡米。PSTC合格。カウントダウン@タイムズスクエア・メインステージで和太鼓ライブパフォーマンス/全世界中継。同年、「鼓舞」設立。YPTC振付賞受賞。BlueNoteNY 出演。02年、ロングランオフブロードウェイミュージカル「STOMP」に日本人として初めて合格、以来現在まで出演中。Wella International Talent優勝。K-ollaborationa優勝。AudienceFavoriteAward受賞、Time Out誌「見るべき30のパフォーマンス」に選出される。今年4月には、自身をモデルにしたハリウッド3D映画「MAKE YOUR MOVE/COBU 3D」(Duane Adler監督)が全米公開された。
(2014年9月27日号掲載)