夢を叶えるための一番の条件は情熱
〈リアル〉File 16
現在放送中のNHK大河ドラマ「軍師官兵衛」(主演:岡田准一)の音楽を手掛ける菅野祐悟さん。「ガリレオ」「ホタルノヒカリ」などの人気ドラマシリーズからアニメ、CM、ゲームなど幅広いジャンルで作曲家・音楽プロデューサーとして活躍されている菅野さんにとっても、大河ドラマに携わるのは特別だったという。
〜NHK大河ドラマ「軍師官兵衛」、「ガリレオ」「ホタルノヒカリ」などの人気ドラマの音楽手掛け〜
「オファーを受けた時、相手がどういう世界観を作りたいのかを把握し、それを踏まえた上でさらに、こんないい音楽もありますよ、この音楽の方がこのドラマには合うんじゃないですか? と提案するのが作曲家だと思うんです」
「軍師官兵衛」のプロデューサーから「菅野さんらしく“官兵衛”を表現してください」とオファーされた。日本を代表するドラマの楽曲をオファーされた時は「最初、冗談かと思った」と笑う。事実と分かると「歴代の52曲のオープニングテーマ曲を全て聴きました」。そしてそれらのクオリティーの高さと、それぞれの作曲家の個性に圧倒された。ブランドに傷をつけない仕事ができるかと、不安と戦いながら書いた出来上がりは「それなりに恥ずかしくないものは書けたかなぁというふうに思っています」と謙遜して話す。
年間で約300もの楽曲を作りだす菅野さんが作曲する際に一番気をつけていることは「バランス」。音楽自体は良いが、台詞(せりふ)の邪魔をしてないか。音楽が説明をしすぎて映像にイメージがつきすぎてないか。「例えば、面白い登場人物に面白いでしょ? とコミカルな曲で説明しすぎると、やはりかっこ悪い。抜き差しのバランスが大事なんです」。悲しいシーンにただ悲しい曲をつけるのではなく、「観ている人間の心の奥深くに記憶として残る名シーンにするには、曲と映像とのマッチングやバランスを強く意識しますね」
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小学校1年生で既に「夢は作曲家」だったが、映画や映像の音楽のプロになりたいと意識し始めたのは中学生のころ。作曲家、エンニオ・モリコーネが手掛けた映画「ニュー・シネマ・パラダイス」の音楽に出合い、それが入り口となった。「分かりやすいし、美しいし、ジャズでもクラシックでもなくて。こんなに美しい曲が世の中にあるんだ! って」。その時に、こんなに素晴らしい音楽を書くことが、職業となることにも衝撃をうけた。「こういう曲を書いて、ご飯が食べていけるんだったら、それは最高だよなって。(笑)」
来年3月1日には、米シアトルでシアトル交響楽団のコンサート「第7回Celebrate Asia」への楽曲提供が決まっている。「ジャパンアニメーションは強力なコンテンツであり、文化。その発展のお手伝いをしつつ、世界中の方に私の音楽を聴いていただけたらうれしいですね」。ニューヨークでも近い将来コンサートを実現させたいと願う。
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ニューヨークで暮らす日本人には「住んでいるというだけで、その情熱が既にすごいと思います。夢を叶(かな)えるための条件があるとしたら、一番は情熱だと私は思うので、そういう方たちが羨ましいし、尊敬してしまう。仮にまだ夢が叶っていなくても、ニューヨークにいるだけで、もうその第一歩は踏み出しているのではないかと思うんです。なので諦めないでほしいですね」。
(インタビュアー・高橋克明)
〈profile〉かんの・ゆうご 大学在学中よりアーティストへの楽曲提供を始め、2004年フジテレビ系月9ドラマ「ラストクリスマス」でドラマ劇伴デビュー。現在、映画、ドラマを中心に幅広いメディアで活躍中。フランス的な繊細で美しいピアノや弦、テクノ、音響、オーケストレーションを得意とする。年に一度オーケストラをバックにソロコンサートを開催。10年、「アマルフィ 女神の報酬」で日本映画批評家大賞「映画音楽アーティスト賞」と日本シアタースタッフ映画際「音楽賞」を受賞。ほかの手掛けた近年の作品は、映画「踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望」(12)、TBS系ドラマ日曜劇場「安堂ロイド~A.I. knows LOVE?~」(13)、映画「真夏の方程式」(13)、フジテレビ系ドラマ「昼顔~平日午後3時の恋人たち~」(14)、「MOZU」(14)、テレビアニメ「ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース」(14)など多数。
(「WEEKLY Biz」(ニューヨーク)2014年10月11日号掲載)