〈コラム〉従業員を安易にエグゼンプト扱いすると罰則と損害が生じる

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ワーク・スケジュールについて(5)

「HR人事マネジメント Q&A」第5回
HRMパートナーズ社 副社長及びパートナー 上田 宗朗

前回=8月28日号掲載=では「働きぶりを間近で見られずより厳しい管理に」と題し、正しくはノンエグゼンプト従業員なのを誤ってエグゼンプト扱いしてきた従業員達が、コロナ禍を契機に自宅勤務となり、上司をして急に就労時間・就労スケジュールを厳しく管理し始めた場合、従業員達から反論される可能性が生じるが、それに対して法的且つ理論的にきちんと説明できるのか? 説明する用意はあるのか? と問題提起しました。

残念ながら、日系企業に限らずどこの国から来た企業であれ、大半は正当性を説明できない筈。理由はFLSA法(Fair Labor Standards Act)に則っていないケースは明らかに企業側の方が多いからです。

重ねて言いますが、駐在員の方々の中には、従業員のポジションタイトル自体を全てマネジャー職に統一しておけば良いと前時代的に思い込んでおられる方が今も猶多く見られますし、そうでなくとも、残業した分の賃金を余分に支払ったり計算したりは確かに面倒で人件費も嵩み且つ余計な手間がかかります。従い、従業員全員を、就労時間(数)に影響されないエグゼンプト従業員にできたらどれほど楽だろう、と大半の経営者が思っていることでしょう。

しかしながら、上記した如く、これは就労に関するここ米国に古くから存在する真っ当な法律であり、米国内の企業全てが必ずや律すべき科条であり、人件費が増えようとも管理が面倒であろうとも遵守しなければその先にペナルティーと損害が待っています。

ペナルティーと損害とは言わずもがな、これまでに残業させた未払い分を遡って支払うのは当然のこと、それに時給分の1・5倍が課されたり、利子が加えられたり、時には罰金が科されもします。(現在のところ遡る年数に上限あり)

また例えば、従業員をレイオフする際などに於いて、企業はその従業員との間で権利放棄書を交わし、それに同意させる代わりに退職金をオファーするとの労使間の慣習があります。その権利放棄書で謳われるのは専ら「企業を何らかの差別を理由に訴えないこと」に尽きるのですが、そのあとには「放棄させることのできない権利」の一覧も記載され、それには「未払い賃金」が名を連ねています。

即ち、その当時はうまく言い逃れられたと思っても或いは知らずに行っていたとしても、未払い賃金あるいは未払い残業代が労使間に生じているのならば将来に亘り長く企業を苦しめることになり得ます。

従って、誰もがお分かりのように、エグゼンプション・ミスクラシフィケーション問題は、「うちの会社も間違っているかな?」「もしかすると拙いかな?」と思った時こそが解決に向けて動き出す時であることを重々理解してください。

(次回は10月第4週号掲載)

上田 宗朗

〈執筆者プロフィル〉うえだ・むねろう 富山県出身で拓殖大学政経学部卒。1988年に渡米後、すぐに人事業界に身を置き、99年初めより同社に在籍。これまで、米国ならびに日本の各地の商工会等で講演やセミナーを数多く行いつつ、米国中の日系企業に対しても人事・労務に絡んだ各種トレーニングの講師を務める。また各地の日系媒体にも記事を多く執筆する米国人事労務管理のエキスパート。

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