〈コラム〉ゴミ袋とレジ袋

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倫理研究所理事​長・丸山敏秋「風のゆくえ」 第144回

ゴミ袋に名前を書いて出させる自治体と知られる長野県の様子を、先月21日朝のNHKニュースが伝えていた。

取材記者が向かった東御(とうみ)市のゴミステーションでは、20年以上前から指定のゴミ袋に名前記入を求めている。ゴミを出しに来た人に尋ねてみると、「ずっと名前を書いて出しています」「いつもそうしているし抵抗はない」との声。

名前を書いてもらう理由を市に聞いてみると、「名前が書かれてあれば、自身のゴミに責任を持ってもらうことができる。また、分別で勘違いしたり間違いがあったりした時に、誰が出したかわかれば、その人に伝えることができ、やり直してもらうことができる」とのこと。

長野県では県内77ある自治体のうち、なんと71もの市町村がゴミ袋に名前を求めている。しかもその約4割は、名前が書かれていなければ分別されていても回収しないという。もとよりプライバシーに配慮して、名前記入を求めない自治体もある。

専門家によると、真面目な県民性、堅固な自治会組織、人口規模も小さい集落形成、住民の定着率が高いといった自治体では「記名制度」を導入しやすい。プライバシー保護の工夫(たとえば登録した番号を書いて出すなど)がなされ、住民のコンセンサスが得られるのならば、ゴミを出した人を特定できるようにして、責任感を高める制度は望ましいと筆者は思う。

他方、レジ袋の有料化は、実質的なスタートから丸3年が過ぎ、国民にとって当たり前になっているが、どうも腑に落ちない。この制度は環境省の省令として、令和2(2020)年7月1日より全国一律で始まった規制である。改めて振り返ると問題が多いのだ。

実はレジ袋省令が制定されるまでに、何度か法制化が検討されていた、ところがその度に「憲法違反の疑義」が懸念されて、断念してきた経緯がある。レジ袋の有料化を法令で義務付けるのは、憲法第22条「営業の自由」に抵触する可能性があるというのである。ゆえに法律でなく、内閣から出される政令ですらなく、関係省庁から出された省令によって出すことになった。

世の中にはレジ袋規制以外にも、日常生活で様々な規制が存在していて、それらの規制には必ず経済コストが伴っている。しかし国民にそれが認識されることはほとんどない。たとえばレジ袋の場合、レジ係が袋の有無のやり取りをする「声掛け」のコストを試算すると、全国の店員に支払う時給総額はざっと年間140億円にものぼる。

そもそもレジ袋の有料化が環境保全に有益かどうかについては、以前から疑問の声が出ている。しかしたとえ省令でも、あれほどのキャンペーンを行って実施し、すでに定着している規制を、中止して元に戻すわけにはいかないだろう。

国民は騙されている、とは言い過ぎかもしれないが、おびただしい数の規制の背後には、大義名分とは裏腹の、利権が絡んでいることが多々ある。アメリカでも同様ではないか。怪しい規制は断固として是正する覚悟をもって臨まなければ、国を甦らせることなどできない。

(次回は4月第2週号掲載)

〈プロフィル〉 丸山敏秋(まるやま・としあき) 1953年、東京都に生まれる。筑波大学大学院哲学思想研究科修了(文学博士)。一般社団法人倫理研究所理事長。著書に『「いのち」とつながる喜び』(講談社)『至心に生きる 丸山敏雄をめぐる人たち』(倫理研究所刊)ほか多数。

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