小曽根 真 インタビュー 音楽は五感全てをつないでいく芸術。そして人と人もつなげていく

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「ガチ!」BOUT. 262
ジャズピアニスト 小曽根 真に聞く

ジャズ界の最前線で活躍 自身の目指すゴールとは

国際的に活躍し、今春、紫綬褒章を受章するなど、日本が世界に誇るジャズ・ピアニスト、小曽根真さん。今年6月、ニューヨークで30年以上ぶりとなるソロコンサートをジャパン・ソサエティーで行った。世界的なトッププレーヤーとの共演や、自身のビッグ・バンド「No Name Horses」を率いてのツアーなど、常にジャズ界の最前線で活躍を続ける小曽根さんに、“音楽”について、そして自身の目指すゴールについてお話を伺った。 (聞き手・高橋克明)

─紫綬褒章、受賞おめでとうございます。
小曽根 ありがとうございます。でも、これはもう、家内をはじめ僕の音楽を支えてくださった皆さんのおかげですね。特に今回はジャズとクラシックという二つのジャンルの音楽をクロスオーバーしたことで評価を頂いたわけですので、ジャズミュージシャンのゲイリー・バートンやチック・コリア、そしてクラシックの素晴らしい音楽家の方々の応援があって初めての受賞なので。その方々にやっと少しだけ恩返しができたって思ってます。

─世界を舞台にしての活動、日本人ミュージシャンとして意識されることはありますか。
小曽根 実はないんです。日本(の音楽)はこうですよ、っていうのを自分の音楽に取り入れることを僕はできないんですね。例えば日本の楽器を使って演奏するとか、表面的なことをするのは嫌なので。実は一度だけ、アルバム制作のために、以前、歌舞伎のお囃子(はやし)を勉強させていただいたこともあったのですが、それはもう付け焼き刃でしかなくて。そういう意味では、日本人としてというよりは「音楽家として」という認識の方が強いです。

─何人(なにじん)とかは関係ない、と。
小曽根 うん、関係ない。自分の演奏がちゃんとお客さんに届けば、どこの国も反応は同じです。音楽って僕は言語だと信じていて。人間生きている限りその音を聞けば、生理的に感じることは、不思議と世界中みんな同じなんですよ。例えばね、くだらない話ですけど、あの授業の始めとかに流す、お辞儀を合わせる音ってあるじゃないですか、チャーン、チャーン、チャーン、っていう。

─「起立、礼、着席」の。
小曽根 そう。その「お辞儀の音楽」って聞くとね、みんな頭の中で、あの絶対和音が鳴るんですよ。でね、例えば、チャーン、チャーン……(って二つ目までで、止めてしまったら)

─う…き、気持ち悪いですね。
小曽根 でしょう? これが音楽なんですよ。5度セブンスって音があって、5は1に帰るという理論があるんですけど、理論は後付けなんです。それを知らなくったって、三つ目のチャーンで人間はホッとする気持ちになる。呼吸は息を吐いて、吸いますよね。テンションがあって、リリースがあって、そこに緩急が必ずある。

─それは世界共通なんですね。
小曽根 音楽にもいろんなボキャブラリーがあって、聞いている人が切ない気持ちになったり、恐怖を感じたり、幸せな気持ちになったり、キラキラとした星が見えたりする場合もある。音楽は全ての五感をつないでいく芸術なんですね。

ニューヨークでのソロ・ピアノコンサートの模様=6月7日、ジャパン・ソサエティー((c) Ayumi Sakamoto)

ニューヨークでのソロ・ピアノコンサートの模様=6月7日、ジャパン・ソサエティー((c) Ayumi Sakamoto)

─感じることに関しては知識や国籍も関係ないですね。
小曽根 なので、音楽を絶対に高尚なものにしないでほしい。そういつも学校で教えています。特に日本だとジャズとかクラシックっていうと「聞き慣れていないので分からない」っていう人が多いですけど、僕だってそれを説明することはできないですよ。音楽が「何か」なんて分からない。もちろん(ピアノを)弾くことはできますよ。でも、それが目的ではないんです。弾くことによって、聴く人に何かを感じてもらって、その人とつながることが目的なんです。音楽という言語がある限り、僕は世界中で旅ができる。で、旅先で音楽を通じて「生きてる」ってことをみんなで共有する。政治的にどんなに難しいこと、理解できないことがあっても、「生きてる」っていうレベルではみんな共有できるわけです。悲しいこと、うれしいこと、切ないこと、楽しいこと、腹が立つこと─。それら全部を音楽を通じてみんなで共有していく。で、音楽を通じて最後はみんなを元気にしていく。ただそれだけのことなんです。だから、難しいことでも、高尚なものでも、なんでもない。

─ジャンルを問わず、こちらでパフォーマンスするアーティストは、ニューヨーカーウケする、例えば音楽家なら和楽器、デザイナーなら着物、舞台演出家なら和の風景など日本的なガジェットを持ち出し気味ではあると思うんです。ただ、過去、取材をした中で、世界でトップに立つ人は、ことさら必要以上に和のガジェットを持ち出す人は少なかったかもしれません。
小曽根 それは、それぞれがやっている芸術が大好きだからですよ。だから中途半端なことはできない。もちろん人に感動を与えるレベルまで落とし込めたら、ガジェットを持ってきてやるのも、すてきなことだとは思います。ただ、単純にウケ狙いであれば(やっている人間の方に)飽きがくると思うんですよ。人に感動を与えるってことは、もっともっとシンプルに生きてるってレベルでつながることだと思うんですね。なので僕の場合はCG(コンピューターグラフィックス)を使ったすごい映画ではなくて、人間を撮ってる映画を見ると感動するんですよ。例えばピアノでも、キース・ジャレットなんて、単音を弾いただけで、こっちは涙がぽろぽろ出ます。それは彼がすごく大事に大事に大事にしてる音だから。もう、神ががってますよ。それこそが感動だと思うんです。

─僕たち素人はジャズとクラシックって全く別物なんじゃないかと思ったりしますが、今のお話を聞くと小曽根さんにとっては「音楽」という一つのジャンルでしかないんですね。
小曽根 そうですね。使う言語が違うだけのようなものですね。ジャズが英語だとすると、クラシックはドイツ語なんです。カンツォーネはイタリア語ですよね。で、タンゴはスペイン語。ボサノバはポルトガル語。演歌は日本語なんですよね。同じ12音階のはずなのに、メロディーも違うし、匂いまで違う。でも、聴いた人間みんなで感情は共有できる。それこそが音楽のミラクルですね。

─聴く側は、感情を共有できるという意味で「同じ」だとしても、演奏する側はやはりそれぞれの「言語」を使い分けなきゃいけないわけですから、想像以上に大変ですよね。技術的には当然「同じ」ではないわけで…。
小曽根 そっりゃ、大変ですよ(笑)。でも、それを大変と思うか、楽しいと思うか。僕の座右の銘で、いつも学生たちに言うのは「できないことこそ宝物」っていう言葉なんです。みんなできないことを隠すでしょう。そもそも、そこが間違いなんですよね。芸術をやる人間はできないことに向かっていかないと。ジャズなんて即興演奏だから、自分が1回弾いたものは基本的には、もう弾かないんです。ということは、毎回、行ったことのない所に行かないと。

─常に、できるかどうか分からない状況に挑んでいる、と。
小曽根 それはとても怖いですよ。オーディエンスはエネルギーを感じとることができるから。ボキャブラリーが少ない人がそれをやるとずさんな演奏になるし、破綻していくわけですよね。言葉を知らない人は話しようがない。物語を作っていくにはそれなりのボキャブラリーもリズム感も必要になります。なので、スピーチだって、テンポが悪い人のは頭に入ってこないじゃないですか。演説聞いてもまずはしゃべり方を勉強した方がいいんじゃないかって。

─演説する前にジャズを勉強した方がいいくらいの。(笑)
小曽根 こっちの人はスピーチ上手でしょう。(前大統領の)オバマさんなんかもスゴくうまい。そういう意味では言語と音楽っていうのは、つながりがあると思いますね。なので(ジャズの世界から)クラシックの世界に飛び込んで、最初にモーツァルトを弾いた時に、同じレベルのものを感じられたんですよね。そのあまりの素晴らしさに(演奏しながら)涙が出てきて。

─自分の持っているボキャブラリーとリズム感で、モーツァルトのクラシックも理解することができた、と。
小曽根 (感じることはできても)もちろん(技術面で)最初は「全然弾き方が違う」って言われたりもしましたよ。で、どう違うの?って聞いて、いろいろ勉強したけど、でも、まだ分からなくて。何が違うのか。まあ、違うのは分かる。でも彼らが弾くその正しいモーツァルトっていうか、こういうふうに弾くべきスタイルっていうのがあるんですけど、それを僕は、いろいろこう盗むんですけどね、それでも分からないっていうか。

─かつて、インタビューした、そのジャンルで究められた人たちは(故・中村)勘三郎さんにしても、イチロー選手にしても、蜷川幸雄先生にしても、皆さん「まだ、分からない」っておっしゃいます。トップになればなるほど。しかも、今の小曽根さんのように、なぜか皆さんちょっとうれしそうなんです。
小曽根 だってうれしいから(笑)。分かっちゃったらもう面白くないと思うんですよ。分からないことが楽しいんですよ。だから「できないことは宝物」なんです。できないことを見つけたら、「ああ、練習する課題がここにできた!」っていうことでしょ。やっぱり長年やってくるとそれなりにできることが増えてくるから。そうすると、仕事はなんとかこなせるわけですよ。でも、それをやってると、自分の気持ちがどんどん萎(な)えてくるはずなんですね。だってそこへ来るまではうれしくてしょうがなかったはずなのに、うまくなった途端にそれで全部こなしていったら、アウトプットしかないですから。消費じゃないですかそれは。クリエーションじゃないですよ。うん。クリエーションしていくっていうことは「これで良かったんやろか…」っていうのが常にないと。その「これで良かったんやろか…」っていうのが楽しくない人はやめたほうがいい。

─なるほど…。どこかで、ドMでないと。(笑)
小曽根 アーティストって基本的にMなはずですよ(笑)。じゃないと40(歳)過ぎてわざわざクラシックなんて始めないですよ。42(歳)からクラシック始める人なんていないよね。(笑)

─でも、そこからまた新たな大きな扉が開いて…。
小曽根 (かぶせるように)あのね、海外の一流のアーティストたちって、惜しみないんですよ。自分の持っているものをためらいもなくシェアしてくれるんです。チック・コリアのソロコンサートに(客として)行った時にも(ステージ上から) I’d like to acknowledge my genius friend Makoto って紹介してくれるんです。その無条件に人をたたえる器の大きさに僕はいつも感動しますね。やっぱり、継承していくってことだと思うんですよね。僕なんかが、今ここに来られたのは本当ににいろんな人が引っ張ってくれたから。ジャズだと、ゲイリー・バートン、チック・コリア、ブランフォード・マルサリス、クリスチャン・マクブライドもそうだし、クリスチャンなんて、「レッツプレー!」って言ってくれて。一緒に(デュオを)やるってことが、もうシェアするってことだし。ギブすることが惜しくない。やっぱり、継承していくってことだと思うんですよね。その愛情の大きさっていうか器の大きさっていうのがすごく僕は、ワールドワイドで活躍する人たちで音楽家の特徴だと思います。

─先ほどの「音楽」は世界中の人と感情を共有する芸術だという話に通じるものがありますね。
小曽根 そう! なので、その方々は人にエネルギーを与えていくことを自然に意識されてますよね。ニューヨーク・フィル(ハーモニック)のメンバーなんかもそうですよ。僕が行った時に、別にナイスにする必要ないのに、ステージに上っていった時からみんな、わーって(拍手を)してくれる。しなくてもいいわけでしょ? でもそれをして、支えて、たたえてくれる。それによって僕はまた、気持ちよく安心して演奏できる。それをすごく感じますね。

─ニューヨークという街に関してはいかがでしょう。ご自身の音楽性に影響を与えられましたか。
小曽根 例えば東京と比べた場合、全然人間くさいですよね。コンクリートのジャングルなのに、この街を作ってるのは、やっぱり「人間」なんですよね。日本人って表面的に真面目なところがあるじゃないですか。本音と建前がある。こっちはないですからね、みんな本音で生きてますから。例えば、くだらない話ですけど、車止めたらダメって場所に止めたい場合「5分だけ!」っていって100ドル渡したら、こっちってOKしてくれるようなところあるじゃないですか。(笑)

─往々にしてあります。(笑)
小曽根 いや、もちろん、良い例じゃないですよ(笑)。でも、日本だったら「金で動くのか!」ってみんなが非難する。くだらない話だけど、この「露骨なほどの人間臭さ」っていうのがね、僕はなんかね、キライじゃない(笑)。全てにおいて人の目は関係なく、僕はこうする、っていうのが、みんなにあって、それがぶつかり合いながらお互いをリスペクトし合っていて。そこはすてきなところだと思いますね。

─ちょっと自由すぎるキライもありますが。(笑)
小曽根 でも、そうじゃないと、この街のとてつもないエネルギーにのみこまれてしまう。この街って、いるだけで何かをやっている気持ちになっちゃう危険性もあるんですよね。だって、ここは、一歩外に出たらものすごいレベルのアートがいっぱいあるから。マンハッタンは一つの国ですよね、もう。ここに世界の一流がギュッと凝縮されている。触れるだけで、とてつもないレベルですからね。

─それではこの先の小曽根さんのゴールを教えてください。
小曽根 もちろん、また映画音楽をやってみたいなとか、オーケストラも書いてみたいなとか、その都度、その都度、いろいろとはあるんですけれど、ゴールという言葉になったら難しいです。やっぱり自分の命の続く限り、皆さんに音楽を届け続けることができればって思いますね。

─最後にニューヨーク在住の日本人にメッセージをお願いします。
小曽根 音楽をやっていてすごく教えてもらうことことは、自分を信じることなんですよね。で自分を信じると書いて、自信っていう言葉なんですよね。コンフィデンスっていうのは絶対に、自分を信じることからしか、生まれないんですよ。だから、人に言われたから何かをするのではなくて、自分から積極的に何かをやっていくことが、自分自身を作っていくんだと思うんですよね。だから、演奏をする時に間違ったことを怖いと思って演奏するとつまらない音楽になるんですよ。とにかく、聞こえてきた音をバーンって弾いてみるということ。自分が発信源になるっていうことを。それを怖いけどやってみる。僕らはそれをやらないと駄目な仕事なんですよ。皆さんがお金を払ってコンサートに来ていただいた時に、僕がうまく弾けるかなってビビってたら、そんな姿を見せたら、そんなドメスティックなもの見たくないですよね。突き抜けたものを見たいはずなんですよ。それは何かっていうと、僕が間違えるかもしれないけど向かっていくよっていう、ガーっていうエネルギー。見ている人はそれを絶対に感じてくれるんですよね。安全圏に行こうとすると、難しい。

─無難に置きに行っているのはバレますよね。
小曽根 バレるし、誰より自分が一番分かりますよね。「あぁ、オレ、置きに行ってるなぁ」って。もちろん、それが悪いってことではないと思うんです。「勝負したくない」ってチョイスもあると思うんです。「したらストレスになる」人もいる。それならそれでもいい。リーダーになりたい人とサイドマンになりたい人がかならずいる。リーダーになりたくない人はそれは全然OK。なぜならその人のチョイスだから。

─ただ、リーダーになりたければ、安全圏から飛び出さないといけない、と。
小曽根 うん。極端に言えば、リーダーになりたいんだったら、自分で問題発言をして、全て責任を取っていかないと。そうは言ってもね、こう言いながらいつも自分の首締めるんですよね(笑)。今日のコンサートだって(自分で自分に)プレッシャーをかけてる(笑)。だけどそこに行かないことには、やっぱり面白くない。だからこそ自分を信じるってことが一番大切なんです。

─全てはそこからだ、と。
小曽根 特にこの国はそれをさせてくれるはずなので。日本よりはやりやすいはずなので。何かの型にそって動くことではなく、自分にしかできないことを試してみてください。それができやすい場所だと思うんですよ。やりやすいはずだと思うんですよ。自分の個性を求められるのがアメリカの国民性だと思うので、なので、表面的なことではなくて、本当に自分がしたいってことをやっていってもらいたいですね。

 

小曽根真(Makoto Ozone)
職業:ピアニスト
1983年バークリー音大ジャズ作・編曲科を首席で卒業。同年米CBSと日本人初のレコード専属契約を結び、アルバム「OZONE」で全世界デビュー。ソロ・ライブをはじめ、チック・コリア、ゲイリー・バートン、ブランフォード・マルサリス、パキート・デリベラなど世界的なトッププレーヤーとの共演や、自身のビッグ・バンド「No Name Horses」を率いるなど、ジャズの最前線で活躍。また、クラシックにも本格的に取り組み、ニューヨークフィル、サンフランシスコ響、シカゴ響など世界の主要オーケストラと共演を重ねる。作曲活動も盛んで映画、舞台音楽などマルチな才能で多彩な活動を続けている。2018年紫綬褒章受章。
【オフィシャル・サイト】makotoozone.com

〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。

(2018年7月28日号掲載)

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