須藤元気

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サブカル的なものから世の中を変えたい

 「ガチ!」BOUT.76

元プロ格闘家の須藤元気さんが手掛ける音楽プロジェクト「WORLD ORDER」。総合格闘技時代に入場パフォーマンスで魅せた先鋭的なアニメーションダンススタイルが話題をよんでいる。アルバムの発売を記念し、ニュー ヨークでトークショー、またライブでのパフォーマンスを行なった須藤さんに、今の心境、今後の活動についてお話を伺った。(聞き手・高橋克明)

 

アルバム「WORLD ORDER」引っさげ7人組パフォーマンス集団NYデビュー

「WORLD ORDER」のメンバーとライブで共演したダンサーの甲田真理さん(中央)(photo : Mori Kenji)

「WORLD ORDER」のメンバーとライブで共演したダンサーの甲田真理さん(中央)(photo : Mori Kenji)

今回、本格的なCDデビューとなりました。その経緯を教えてください。

須藤 高校生のころに二つの夢がありまして、格闘家になるか、ミュージシャンになるか。ぶっちゃけ、どっちがモテるかと少年らしい直線的な動機で天秤(てんびん)にかけたところ格闘家になったわけなんですが(笑)。歴史に「IF」はないと言いますが、もし自分がミュージシャンだったらと、その時からずっと考えてました。だから(格闘家)現役の時からずっと自分の中で、(デビュー後は)スーツを着て、オリジナルのダンスで歌うっていうビジョンを持っていたので、やっとこうやって形になったことをうれしく思いますね。

現役のころからそこまで具体的なビジョンをお持ちだったんですね。

須藤 実際に格闘家になるのも、高校生のころから入場パフォーマンスはトリッキースタイルでやろうというところまでイメージを持っていましたね。背中のタトゥーも、授業中に(デザインを)ノートに書いたりしていましたので。今回も概念を具現化するのに時間がかかりましたけど、こうやって世界の大都市であるニューヨークに来られて本当に良かったな、と。

今まで格闘家の方とかプロレスラーがCDを出すと“痛い”結果に終わることが多かった中で実際、ミュージックビデオを見てまず思ったのが「器用すぎだろ、須藤元気!」っていう。(笑)

須藤 ありがとうございます(笑)。まず、スポーツ選手がCDを出すと“痛い”結果になるというのは重々承知でしたから。やはり主観的意識と客観的意識を相対化していく、もう一人の自分自身をチェックしながら表現していくことに気をつけましたね。人間の魅力って「振り幅」だと思うんですよ。格闘家だったからこそ格闘家らしからぬユニホームにしよう、と。格闘家ってスーツのイメージないじゃないですか。スーツ着て、眼鏡かけて、七三分けにしようっていうのは「振り幅」をつけるための僕なりの戦略ですね。あとは実際に音を聴いて、映像を見てもらえれば、これは遊びじゃないんだなと、皆さんに喜んでもらえると信じてます。やるなら最高のものを作っていこう、と常に意識しているつもりなので。

格闘技の試合と音楽の共通性ってありますか。またどちらが難しいでしょう。

須藤 どちらにしても「勝負」してしまうんですよね。音楽の場合もプロ格闘技と同様、いかに多くの人に楽しんでもらえるか、勝ち負けを考えてしまいます。局地的にはなかなか言えませんが、どちらかというと格闘技の方が難しいですかね。格闘技の場合はやはり対戦相手がいることなので、いくら練習してきても相手の体調でも変わりますし。パフォーマンスだと自分の中のベストを100パーセントこのCDに詰め込めるので。

どちらがお好きですか?

須藤 (笑)。うーん…。今はやはり音楽に全身全霊でベストを尽くしてるので、今はこっちの方が楽しいですよね。ただ、最近(ダンスの)動きを覚えると、リングの上でこういう動きで闘ったらセンセーショナルだろうなといまだに考えてしまう自分もいちゃいますけど。(笑)

今後の目標を聞かせてください。

須藤 そうですね…。やはり、世界を目指していきたいですね。「WORLD ORDER」という名前だけに世界ツアーができたらうれしいなと。僕は日本は世界最大のサブカル(チャー)王国だと思っています。やはり日本的なアプローチはとても意識してますね。ミュージックビデオを見られた方はお分かりかもしれませんが、すべて世界から見た日本というのを意識しています。日本人がやっていることっていうのはアメリカ人やヨーロッパ人にとって新しいことだと思うんですよ。明後日(8日)のライブでも来ていただいた観客に「日本人ってヘンだな」って思わせたい。僕はメーンストリームではないので、サブカル的なものから世の中を変えていきたい、面白くしていきたいと思っているので。くすっと笑えるようなものを表現していきたいですね。

ニューヨークの印象を聞かせてください。

須藤 本当に驚きました。この街はいろんなバイブレーションを持った人がいて、その人たちの表情を見ているだけで刺激を受けますね。あとはなんていうのかなあ。グレーゾーン…。白でもないし黒でもない。答えってグレーゾーンにあると僕は思ってるので、そこがとても魅力的な街ですね。さまざまな面においてパラドックス的なものが多くて、現代の縮図、光と影を含んでいるな、と。この先、世界をよくする仕事をしていこうと思っていたので、このタイミングでこの街を見に来れて本当に良かったですね。

在米の日本人読者にメッセージをお願いします。

須藤 世界を変える一番の近道は自分自身を変えることだと思っています。この世界というのは自分自身の投影物と僕は考えているので、360度のプロジェクターのようなもんですかね。自分が変われば、ニューヨークも変わる。世界も変わりますので。夢を追っかけてここまで来るっていうのは、自身の内側で前向きに考えて、前向きに話して、前向きに行動して、その三つのエレメントでここまで来たわけですから。それだけで、すごいですよね。ぜひ、ニューヨークで成功して、日本にいる人にもどんどん希望を与えてほしいです。

須藤元気(すどう げんき)

職業:元総合格闘家、タレント、作家、アーティスト

1978年東京都生まれ。高校時代からレスリングを始める。全日本ジュニアオリンピックで優勝、世界ジュニア選手権日本代表。高校卒業後に渡米し、サンタモニカ大学でアートを学びながら格闘家としての修業を続け、帰国後に逆輸入ファイターとしてプロデビュー。UFC-J王者を経て、K-1やUFCなどで活躍。2006年現役引退。以降は作家、タレント、俳優、ミュージシャンなど幅広く活躍。著書「風の谷のあの人と結婚する方法」は19万部、ほか多数の著書がベストセラー。08年、母校拓殖大学レスリング部監督に就任。1年目での大会で3冠を達成し、最優秀監督賞を2度受賞している。公式サイト:http://crnavi.jp/sudogenki/blog/

 

WORLD ORDER 格闘家時代、「入場100%、試合100%」と公言するほど、格闘技をエンターテインメントとして〝表現する〟ことに強いこだわりを持っていた須藤さんが純粋な表現者としての音楽プロジェクトを本格始動させた。worldorder.jp/biography/

 

〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。

 

(2010年8月14日号掲載)

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