NYデビュー果たした「和楽器バンド」にインタビュー

0

師範代レベルの和楽器奏者と洋楽奏者によるロックバンドに、ニューヨーカーも大興奮

和楽器バンド

(左から)ドラムの山葵(わさび)さん、ボーカルの鈴華ゆう子さん、箏のいぶくろ聖志さん(撮影:中川)

日本の音楽家集団が3月14日、ニューヨークデビューを果たした。“新感覚ロックエンタテインメント”と形容される「和楽器バンド」。詩吟元日本一のボーカルと箏(こと)は師範で、尺八、津軽三味線、和太鼓も師範クラスの演奏家が、ドラムやギター、ベースと共に和服をモチーフとした衣装を着て、ロックスタイルの音楽を演奏する。

日本では、2014年メジャーデビューでのオリコン週間ランキング初登場5位を皮切りに、発売から22週間連続でTOP100入り。15年セカンドアルバム「八奏絵巻」でオリコン週間ランキング初登場1位、昨年末の第57回「輝く!日本レコード大賞」で「企画賞」を受賞、ヒット曲「千本桜」のビデオが動画サイトで3500万再生回数を突破するなど、輝かしいヒストリーを重ねてきた。

海外での注目度も、昨年7月に米ロサンゼルスで行われた全米デビュー・ライブが完売するなど急上昇中。今回会場となったアービング・プラザでも日本人よりもニューヨーカーの姿が目立ち、観客大興奮の熱狂ライブとなった。

和服を着て洋楽を演奏する集団や、和洋折衷の音楽を演奏する集団はこれまでにも存在したが、このバンドは他と一線を画す圧倒的な存在感を放つ。その理由はそれぞれの演奏家の演奏技術と志の高さにある。

満を持した今回のニューヨークデビューライブは1000人を超える観客でにぎわい、大盛況となった=14日、ニューヨーク(撮影:吉田)

満を持した今回のニューヨークデビューライブは1000人を超える観客でにぎわい、大盛況となった=14日、ニューヨーク(撮影:吉田)

◇ ◇ ◇

詩吟で日本一のボーカル、和洋折衷の活動に挑戦

ボーカルの鈴華(すずはな)ゆう子さんは11年、詩吟で日本一の座に輝いた。伝統的な詩吟を愛する一方で新しいことにも挑戦してみたかった鈴華さんが、和楽器奏者と洋楽奏者の両方に声を掛け、和洋折衷の演奏活動を始めたのがバンド結成のきっかけ。詩吟のみならず詩舞、剣舞の経験も持つ鈴華さん。本来は流派ごとに厳しいしきたりがある世界だが、周囲の先生たちは「伝統と自らの表現手法を組み合わせることは素晴らしい」と送り出した。今では若いファンが彼女の活躍を通じて詩吟を知り、鈴華さんに続けと自ら挑戦する若者も出てきた。インターネットなどを通じてそのような連絡がファンから届くと「この活動を始めて良かったと、心の底から思えます」(鈴華さん)

海外経験持つ箏奏者、邦楽産業再生目指す

箏担当のいぶくろ聖志さんもジャンルを乗り越えたかった一人。高校在学時に既に文化庁派遣による世界8カ国での公演を成し遂げたほどの実力を持つ邦楽奏者だが「演奏ジャンルを邦楽だけに狭める必要はないと感じています」。西洋楽器と共演するためには、特別な楽器調整を手間と時間を掛けて行う必要があるが「全く苦にならないです!」と笑顔を見せる。夢は「邦楽楽器の職人さんたちも夢を持って暮らしていけるような世界をもう一度取り戻すこと」。邦楽が演奏される機会が減るにつれ、職人の仕事も減り、産業としての邦楽が危機に貧していると感じており「そこに変化をもたらすことができれば」と情熱を燃やす。

ドラマー、和楽器との演奏で可能性広がる

ドラムの山葵(わさび)さんは、和楽器と演奏することで自身の可能性を広げてもらったと話す。洋楽器に比べ、和楽器で演奏できる範囲は通常狭く、共演時には洋楽器の側が和楽器の制限に合わせて演奏するのが常識。だがこのバンドに所属する邦楽奏者は皆「本来できないはずの奏法にも挑戦し、できるようにしてしまうのです」。特に和太鼓の黒流さんとの共演は「刺激でいっぱい」と語る。特別な楽器構成の中で自らの貢献方法を模索し、試行錯誤しながら変化していく毎日が本当に幸せと話す。

◇ ◇ ◇

世界進出にあたり、英語の新曲を作るべきかと悩んだ時期もあったが、今はあえて日本の言葉と日本語ならではの歌い方(詩吟)にこだわって演奏していくことに意義を感じている。「日本が持っている文化の素晴らしさを、私たちにできる形でこれからも発信していきたい」。そして自らも「誰かの人生に少しでも良い影響・考え方を与えられるような人になっていけたらと願っています」。彼らの活躍を通じ、日本文化のファンが世界各地にますます増えていくことだろう。

【ウェブ】wagakkiband.jp/

Share.