〈コラム〉「そうえん」オーナー 山口 政昭「医食同源」

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マクロビオティック・レストラン(37)

アメリカに戻ってきたときは、あと半年だけ働いて、もう一度旅行するだけの金さえたまったら出国するつもりでいました。しかし、アメリカでの生活が自分で決めた半年をすぎたころから日本に帰るのがだんだん億劫になってきました。日本に着くころにはまた無一文になっている、大学は卒業していても中途半端な年齢では再就職もままならないのが日本の現実。そのうえ日本の社会は一定の「枠」にはまっていないとまわりから叩かれる。もともと型破りなうえに長い放浪生活で、さらに「たが」がゆるんでいるのは間違いなく――型破りな人間の多いアメリカ人のあいだでは、そう目立つこともないだろうが――日本では私の行動は突出していて陰口好きな日本人の標的にされやすい。
一年で帰るという約束は親が押しつけたものではない。自分でも、そのつもりだったから公言したのですが新しい環境と選択肢の多い生活での一年は、子供のころの二、三か月に匹敵するほどめまぐるしい。私がヨーロッパに向かった時点でちょうど一年がたっていました。ヨーロッパを旅行した七か月は余分です。アメリカに戻ってきてからの月日は、さらにその延長ということになる。自分で約束しておいて自分で破ってしまった。
夏に私はニューヨーク大学に行きました。きっかけはヨーロッパを旅行中、ほかの外国人にくらべて自分を表現するのが、いかに不得手かを思い知らされたからです。ユースホステルでよく車座になって談笑することがありますが、アメリカ人やイギリス人のように英語が母国語の人間は仕方がないにしても、ドイツ人やオランダ人や北欧の人間までもが、まるで母国語のように英語をあやつるのを見て、彼らの何倍も勉強しているはずの私が、話がちょっとむずかしくなると、すぐ貝のように口を閉ざしてしまう自分が情けなくなって――なかには英語を勉強し始めて二、三年というものもいて、なおさら――アメリカに戻ったら、もう一度、英語を勉強しなおそう、と決意したのでした。
(次回は11月第2週号掲載)

〈プロフィル〉山口 政昭(やまぐち まさあき) 長崎大学経済学部卒業。「そうえん」オーナー。作家。著書に「時の歩みに錘をつけて」「アメリカの空」など。1971年に渡米。バスボーイ、皿洗いなどをしながら世界80カ国を放浪。

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