代理出産の歴史(15)165人の代理母が当クリニックで妊娠中、今後の検査・治療の保証もない混乱状態に

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代理出産20

「米国最先端臨床現場から」海外治療コンサルティングリポート 第92回

代理出産医療コンサルタントである弊社にいただくお問い合わせ件数でトップ5に入る代理出産について説明しています。2013年のインド代理出産の実質閉鎖後、生殖医療に関する法的規制がなかったタイに代理出産の地が移った直後、タイではクーデターが勃発し、軍(Junta)に支配され、その軍は代理出産の取り締まりに着手、7月24日にバンコクの12の生殖医療クリニックの踏み込み調査を指令した直後の7月31日に行なわれた医療責任者による会議で、総司令官プラユット率いるJuntaは、アジアの商業代理母の中心地になっていたタイ代理出産市場を閉鎖すると決定したこと、そのあとダウン症のグラミーちゃん問題と邦人の代理出産が発覚のニュースが世界を駆け巡ったことを前回までにお伝えしました。

この相次いで事件が起こったバンコクに滞在していた、代理母国際法務ネットワークの欧州の弁護士は、筆者に8月8日に国際電話でバンコクの混乱状態を伝えました。

一連の出来事により、タイでの商業代理出産、金銭報酬が関わる卵子提供、性別選択を可能とする着床前診断などは徹底的に禁止の運びとなりましたが、以降の生殖医療に関わる禁止方針に対する懸念以上に、その時点でAll IVFを通して多くの妊娠中の代理母の検診が滞り、代理母を診てくれる医師を探さなければいけない、という実質の問題がパニック状況を生み出していました。なんと165人の代理母が当クリニックにて妊娠中だったのです。赤ちゃんの誕生を待っていた依頼者たちはパニックに陥り、タイは完全な混乱状態になりました。妊娠初期のケースの依頼者もおり、妊娠を支える薬であるプロジェステロンの処方も支給が不可、診察・検査も不可になったことから、妊娠の継続が危うい、というケースも多発していました。このため、依頼者とエージェントが代理母たちのケアに奔走しました。また、それまで代理母が住んでいた共同代理母ハウスも空となり、行き先になっている大手の総合病院も、軍政府の監視により、検査・治療が今後も可能かどうかの保証もないという混乱ぶりでした。

(次回は8月第1週号掲載)

さくらライフセイブアソシエイツ代表・清水直子【執筆者】清水直子しみず なおこ) 学習院大学法学部卒業、コロンビア大学で数学を学び、ニューヨーク大学スターンスクールオブビジネスでMBAを取得。マウントサイナイ医科大学短期医学スクール修了。メリルリンチの株式部で活躍し、2003年さくらライフセイブ・アソシエイツを設立。

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