〈コラム〉雇用維持と採用促進策「部下に刮目(1)」

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人手不足(11)

「HR人事マネジメント Q&A」第23回
HRMパートナーズ社 人事労務管理コンサルタント
社長 上田 宗朗

前回=2月25日号掲載=の記事では、働き手側の意識が変わった今、入社間もない時期ですら簡単に辞めてしまう風潮ゆえに企業はやはり採用時の面接を重要視せざるを得ないと締めくくり、反面、面接重視のあまり自社を現実以上に高く売り込んで失望されればそれこそ元も子もないとも付け加えました。

ところで皆さんご存知のように、3月2週目後半から米国や欧州の諸銀行の取引停止や破綻を報じるニュースが流れ始めました。予兆として昨年末には既に今夏以降リセッションが始まると報じられてはいたのですが、中には景気後退の間を置かずして一気に大不況が訪れると持論を展開するアナリストまでおり、市井の多くの人々を不安に陥れています。

一方で時同じく3月2週目終わりの各州統計の結果から経済評論家たちは、新年明けにレイオフを発表した大手企業が多くあるにもかかわらずそれら大型削減が労働市場に然したる影響を与えず今も失業率が非常に低いまま推移しており、人手不足が依然として相当逼迫した状態にあることを強調しています。

幾多もの米民間統計結果では生涯を通じた転職回数が平均5~7回と出ており、これは米労働統計局が「平均的労働者は50歳迄に10以上の異なる仕事に就くが、この数は今後更に増加する見込み」と調査結果を発表していることからも決して誇張されたものではないのですが、これは即ち、皆さんの部下達の転職活動は今後も活発に行われ、そこそこ多くの者が新たな就職先からオファーを貰い、すぐに新しい仕事を見つけるであろうことを意味しています。

この簡単に辞めていく原因を考えてみたのですが、先ず、少し前の日本的思考「生涯一企業に勤め続ける」との考え、これは米国はおろか日本でも今や通用しないことは皆わかっている筈ですが改めて今を以って捨て去るべきです。「まぁ世間はそうだろうが、私の部下はそうじゃない」と思い込みたいのは理解しますが、だからこそ敢えて念押ししたのです。何故なら、そのように思うことこそが隙あるいは油断を生むからです。

もう一度言います。信頼関係が醸成された上下関係は簡単には崩れないと信じたいでしょうが部下も一個の人間、生活もすればお金も欲しければキャリアも積みたいと思っている筈。また今の居心地よい安寧とした惰性のままで果たして良いのかとも自問している筈。当たり前のことですが、部下は仕事に満足しているだろうか? お金は? やりがいは? と常々注視する姿勢こそが彼ら彼女らの秘めたる転職活動を阻止し得るのです。次回はこの現状を省みて考えれば皆さんの企業にもチャンスがあることを考察してみます。

(次回は4月22日号掲載)

上田 宗朗

〈執筆者プロフィル〉うえだ・むねろう  富山県出身で拓殖大学政経学部卒。1988年に渡米後、すぐに人事業界に身を置き、99年初めより同社に在籍。これまで、米国ならびに日本の各地の商工会等で講演やセミナーを数多く行いつつ、米国中の日系企業に対しても人事・労務に絡んだ各種トレーニングの講師を務める。また各地の日系媒体にも記事を多く執筆する米国人事労務管理のエキスパート。

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