〈コラム〉身上調査における「危うい無知」(5)

0

人手不足(10)

「HR人事マネジメント Q&A」第22回
HRMパートナーズ社 社長 上田 宗朗

前回=1月21日号掲載=の記事では、新たに人を採用する際のスクリーニング行為は企業を守る当たり前のプラクティスであるにもかかわらず用心に用心を重ねなければならなくなった現状を採用手順や関連法に照らし合わせつつ取り上げました。

では、そのように企業に災いをもたらすかもしれない面倒な採用手順ならばいっそのこと省けば良いではないかあるいはもっと簡素化すれば良いではないか、即ち訴訟沙汰を避けるべく本来必要とされるスクリーニング行為の一切をすっ飛ばして即採用すればどうか! と考えるかもしれませんが、それはそれで合法的な面接や各種チェックを実践する以上の問題が生じることは明白です。

あるいは暫くの間は派遣スタッフとして用いて様子見し働きぶりや人となりを直に観察してから判断するのはどうか? との窮余の一策もまた誰もが一度は考えることでしょう。

しかし最初から本採用とはせずに派遣で働いてくれるような特別な事情を持つ者が果たしてうまく見つかるかどうか? 仮に見つかったとしても貴社が望むスケジュールで働き続けてくれるか? 派遣スタッフから本採用にした途端に希望給与額やベネフィットが合わず他社に転職しない確証はあるか? これらに今の人手不足の実情を加味して鑑みれば成功確率が極めて低いことはわかりますし、他方の、スクリーニング手順を飛ばして採用する手段をとった場合、訴訟リスクは確かに減るかもしれませんが、一方でその者が果たして適材適所足り得るかを入社後の短期間で見抜くのは至難の業でしょう。

またこれらに加え、スクリーニング手順を省いて採用した者でも企業側が気に入るケースは稀に見られるのですが、その当人がある日すっぱりと辞めてしまうことが通常以上に起こるわけです。要は「手順を飛ばして雇ったのが会社なら、我が方もいつでも気兼ねなく辞めて良いわけだ」とでも自己解釈するのでしょう。

とりわけ2012~14年頃のリーマン・ショックから回復時の買い手市場の当時は、優秀な人材を割安な報酬で採用して得意がっていた企業でも景気が良くなるに連れ「実は本来したい仕事ではなかった」とか「給料が低すぎる」との理由で早い時点で転職した者が多く出ましたし、もっと遡れば1980年代の求職者1人に多くのオファーが殺到した日本企業の米国進出ラッシュによる完全売り手市場だった当時は、求職者側が企業の採用担当者がつむぐ良い言葉に釣られて入社したものの失望して数カ月で辞めてしまうことが多々起こりました。

これらの如く採用がうまくいかない理由の全てが面接を含むスクリーニング手順の軽視にあるとは言いませんが、やはりそしてだからこそ重要視されるべきでことは理解して頂けると思います。そしてコロナ禍を通して多くがライフスタイルを優先し尚且つ先進国の出生率が軒並み鈍化していく時代にあって売り手市場や買い手市場問わず働き手側の意識が変わった為、「自分のやりたいこととは違った」「この会社での将来性を描けない」「会社の縛りがきつすぎる」などの理由を挙げて少しの間ですら我慢せず簡単に辞めていくことに拍車がかかる時代になったと言えるでしょう。

(次回=3月25日号掲載=に続く)

上田 宗朗

〈執筆者プロフィル〉うえだ・むねろう  富山県出身で拓殖大学政経学部卒。1988年に渡米後、すぐに人事業界に身を置き、99年初めより同社に在籍。これまで、米国ならびに日本の各地の商工会等で講演やセミナーを数多く行いつつ、米国中の日系企業に対しても人事・労務に絡んだ各種トレーニングの講師を務める。また各地の日系媒体にも記事を多く執筆する米国人事労務管理のエキスパート。

過去の一覧

Share.