生徒1人に520万円の現実
米国勢調査局が公表した2024会計年度の学校財政調査で、ニューヨーク州の公立校における児童・生徒1人当たりの経常支出は3万1918ドル(約520万円、1ドル=163円換算)となり、全米50州で最高だった。全米平均の1万7619ドル(約287万円)を約81%上回り、2位のバーモント州より約11%、ニュージャージー州より約17%高い。全米の大規模100学区でも、ニューヨーク市が3万5796ドル(約583万円)で首位だった。
給与、年金、特別支援が押し上げ
支出が高い最大の背景は人件費だ。生活費の高いニューヨーク州では、教員や学校職員の給与水準が高く、医療保険や年金などの福利厚生費も重い。全米では経常支出の58・8%が授業関連、36・2%が支援サービスに充てられている。
州内では、特別支援教育や英語を母語としない児童・生徒、低所得世帯への対応にも多くの人員を必要とする。補助教員、カウンセラー、心理士、ソーシャルワーカー、看護師らの配置に加え、スクールバス、給食、警備、校舎の維持管理、光熱費なども、高い物価と人件費の影響を受ける。ただし、勢調査局の金額は地域ごとの物価差を調整していない。
児童減でも固定費は残る
一方、州内の公立校在籍者は過去15年間で約32万2000人、12%減少し、約238万人となった。ニューヨーク市でも7・1%減り、児童・生徒400人未満の学校が半数近くを占めるとされる。
児童数が減っても、校舎の維持費や管理職、教員、警備員などを同じ割合で直ちに減らすことは難しい。学校の統廃合には、通学距離の拡大や地域住民の反対、労働契約上の問題も伴う。固定費を分担する児童数が減れば、1人当たりの支出はさらに高くなる。
欠席とコロナ禍の学習損失
学力面では、全米学力調査でニューヨーク州は4年生の読解22位、数学38位、8年生の読解24位、数学27位にとどまった。背景として指摘されるのが、コロナ禍による学習の遅れと慢性的な欠席だ。
州会計監査官によると、2022~23年度には州内の児童・生徒の29・1%が、年間授業日の1割以上を休む「慢性的欠席」に該当した。コロナ禍前の2018~19年度は18・6%で、大幅に高い状態が続く。欠席率は低所得層、英語学習者、障害のある生徒で特に高く、授業だけでなく、補習や特別支援を受ける機会も失われる。
住居の不安定さ、健康問題、交通手段の不足、保護者の不規則な勤務など、学校だけでは解決できない事情も登校を妨げる。欠席によって学習が遅れ、授業についていけなくなることで、さらに登校意欲が低下する悪循環もある。NY州会計監査官
支出の多さと成果は別問題
高額な支出のすべてが、少人数指導や補習など、学力を直接高める施策に使われているわけではない。給与、福利厚生、校舎、輸送、警備などの固定的な経費が大きければ、支出総額が増えても、児童一人一人への指導時間が増えるとは限らない。
また、州内では学区ごとに教材や指導方法を決めるため、教育内容や実施能力にも差がある。家庭所得、保護者の支援、英語力、障害の有無などによる学力格差も大きい。このため、支出額と全米順位だけから「予算が無駄」と断定することはできないが、巨額の教育費が十分な成果につながっているかを検証する必要はある。
統一教材と欠席対策を強化
対策の柱は、予算の多さではなく、効果が確認された施策に資金を集中させることだ。読解では、音と文字の関係を体系的に教えるフォニックス、語彙、読解力などを組み合わせた「読解の科学」に基づく指導を広げる。州教育局は、幼稚園から3年生向けの教材選定指針や教員向け資料を公表しているが、採用は各学区の判断に委ねられている。NY州教育局
ニューヨーク市も、読解指導を統一する「NYCリード」と数学の「NYCソルブズ」を拡大し、2025~26年度までに計49万人以上を対象とする方針を示した。ただし、導入しただけで効果が出るとは限らず、教員研修や授業の実施状況、学年ごとの成績推移を継続的に検証する必要がある。NY市公立学校
慢性的欠席には、欠席日数の早期把握、家庭への連絡、交通・医療・住宅支援との連携、個別担当者による継続的な支援が必要となる。学習が遅れた児童には、少人数の補習や個別指導を早い段階で行うことも欠かせない。
同時に、児童数が少ない学校の統合や人員配置の見直しによって固定費を抑え、基礎学力対策へ振り向けることも課題となる。学校や施策ごとに投入額と成果を公表し、効果の乏しい事業を見直せる仕組みを整えなければ、「全米一の教育費」が学力向上に結び付く保証はない。