〈コラム〉「そうえん」オーナー 山口 政昭「医食同源」

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マクロビオティック・レストラン(22)

九月X日
朝七時プラハ着。チェドックは長蛇の列。一時間並んでようやくホテルを紹介されたが、貧乏旅行の身には高すぎる。(直接ホテルに行くことはできない。国営の旅行社、チェドックに紹介してもらわなければならない。)仕方がないから、キャンプ場で寝る。夜中に雨に降られ軒下に引っ越す。しかし、そこも横殴りの雨で横にはなれない。結局、一晩じゅう起きていた。

九月X日
今日もホテルを取るのに難渋する。聞けば二日以上の予約はできず、一日ごとにチェドックで予約しなけらばならぬという。なんと不便な国だ。前に並んでいたアメリカ人がクレイジーだと言っていたが、同感。夜、R・シュトラウスのオペラ『アラベラ』を見る。二十クローナ。金が余りそうなので、いい席を買った。(ビザを取るとき一日十ドルの割合でチェコの金を強制的に買わされるのだが、おれのような旅行者には一日十ドル使うのはむずかしい。)今夜は駅に寝て翌朝出ようと思ったが、眠れそうにないので一時十一分の夜行でベルリンに向かう。

九月X日
プラハ―国境―東ベルリン間は六十一クローナで、プラハ―国境―東ベルリンと分けて買うより安い。国境でトランジット・ビザ(一時通過)に五マルク払う。東ベルリンに入る直前に前に座っていた東ドイツの若いカップルに、検問がすむまでしばらく預かってくれと『タイム』など、アメリカの雑誌数冊を渡される。雑誌に検問の男の目が行ったとき、前の若いカップルの表情が変わるのがわかって、ナチに検問されるような緊張を覚えた。「ぼくの雑誌です」と答えると男は雑誌とおれの顔を交互に見比べただけで、それ以上は追及しなかった。西ベルリンに入る。夜カラヤンを聴くつもりでフィルハーモニーに行ったが、チケットは売り切れ、キャンセル待ちが列をなしていた。

九月X日
ニューヨークまでのスチューデント・フライトを買う。三百七十五マルク(約百二十ドル)。夜、R・シュトラウスのオペラ『カプリッチオ』を見る。入場料は学割で四・六マルク。ユース泊。七マルク。

九月X日
ついにカラヤンを聴く。フィルハーモニック・ホールの前で「チケット買います」と他人がするように、ドイツ語で書いた紙を持って立っていたら、キャンセルに来た若い婦人の目に止まったのだ。彼女は二枚持っていたから、二枚求めている人間に譲れば彼女は簡単だったのだが、何十人といるなかで外国人のおれのところに最初に来てくれたからうれしかった。もう一枚は、やはり単独で切符を求めていた男が買った。(ベルリン・フィルハーモニーのスケジュールをハンガリーかどこかで知り、カラヤンをベルリン・フィルの本拠地で聴こうと、演奏会の期日を睨みながら移動していたから念願がかない感動した。)二十マルク。高い席だが仕方がない。ラフマニノフの「ピアノ協奏曲第二番」など。ピアノはワイゼンベルグ。     (次回は3月23日号掲載)
〈プロフィル〉山口 政昭(やまぐち まさあき) 長崎大学経済学部卒業。「そうえん」オーナー。作家。著書に「時の歩みに錘をつけて」「アメリカの空」など。1971年に渡米。バスボーイ、皿洗いなどをしながら世界80カ国を放浪。

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