〈コラム〉「そうえん」オーナー 山口 政昭「医食同源」

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マクロビオティック・レストラン(58)

話は二年ほど前にさかのぼります。そのころ私は、夜「そうえん」で皿洗いをしていましたが昼間はコロンビア大学付属の英語学校に通っていました。
さすがコロンビアです。学生は金持ちの子弟が多く、私のように働きながら来ているものは、だれもいませんでした。そのせいか、先生にはひいきにされました。特に美人のMにはひいきにされ、みんながわからないときに限って私に振ってくるのです。私が答えると彼女までうれしそうにし、答えられないと、「あなたたちがわからないから、わたしも教師をしている意味がある」と言って私の顔を立ててくれるのです。
レベルは四からのスタートでしたが、次学期は五を飛び越して六に行けと言われていました。レベル七に到着すれば、大学院にも入れるらしい。
大学院が急に身近に感じられるようになった。大学院に行こうか、というだいそれた考えを起こしたんだ。大学に行っていたころは勉強は嫌いだと思っていたが、案外そうでもなかったらしい。
勉強するとしたら、やはり日本文学でしょう。――一度、ドナルド・キーン教授の授業に潜りこみました。芭蕉についての講義でしたが学生数がそんなに多くなかったせいもあって、すぐに気づかれて、あの大きな目で何度か睨まれました。
アメリカの大学で日本人が日本文学を学ぶ。アメリカに行って、メイド・イン・ジャパンを買ってくるようなもので、ちょっと恰好悪い気もします。仮に優秀な成績を取ったところで、あたりまえだと思われるだろうし、もし取れなかったら、なあんだ、ということになります。だからといって、英米文学をアメリカ人学生と学ぶほどのガッツはありません。
(次回は10月第2週号掲載)
〈プロフィル〉山口 政昭(やまぐち まさあき) 長崎大学経済学部卒業。「そうえん」オーナー。作家。著書に「時の歩みに錘をつけて」「アメリカの空」など。1971年に渡米。バスボーイ、皿洗いなどをしながら世界80カ国を放浪。

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