〈コラム〉ケン青木の新・男は外見 第59回

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注文服と既製服 part 4

business_1前回は、注文服と既製服の上着の違いについて書きました。もう少々続けましょう。ケーリー・グラントという20世紀を代表する、正統的な着こなしの二枚目俳優をご存知でしょうか?背の高さも6フィート1インチ(約185センチ)で、生涯グッドシェイプをキープされた方なんですが、実は生前、頭が大きいのをとても気にされていたそうなんです、いわゆる“お鉢”の部分ですね。よって彼はスーツやジャケットの上着の肩幅を意識的に広めに取って頭の大きさをオフセットして見せていたのだそうです。あえて詳しい数字は書きませんが、男性の体のバランスをよりよく見せるための“黄金比”に近いものが全くないというワケではないのですが、それはテーラー個々の考え方によって微妙に異なったものとなっていることをぜひご理解ください。
そもそも人間の体は、人間である以上個人個人で違うのが当り前なんですが、一般の皆さまには、どうしてもファッションモデルのような体形にサイズバランスの手本や着こなしの“ひな型”を求めてしまうものなんです。特に私たち日本人にはそうした傾向が強いとされてますが、そのような感性は、ときに欧米においては概してあまり大人らしい感性だとはみなされ難いのはご存知の通りです。欧米人にとって“完全”とは、神様以外にはありえないのですが、人間、そして人間の美しさとは、不完全なものであるが故に、個々インディビジュアルとしてそれぞれに唯一の美しさがあるとされ、そのような唯一の美しさをそれぞれが工夫を凝らして表現することに個性がある、という考えのようです。つまり、一人一人異なる体のシェイプを、注文服によって、不完全ではあるかもしれないのですが、“この世で唯一無二の美しいもの”として創り上げて表現していこうというのが、欧米人における知性、感性の高い人たちの考え方なのであり、そして紳士服の一つの理想の姿でもあるように思うのです。それではまた。
(次回は4月第2週号掲載)

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〈プロフィル〉 ケン青木(けん・あおき) ニューヨークに21年在住。日系アパレルメーカーの米国法人代表取締役を経て、現在、注文服をベースにしたコンサルティングを行っている。日本にも年4回出張。

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