〈コラム〉電子メールによる契約締結効果

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礒合法律事務所「法律相談室」

契約国家と呼ばれるアメリカは、日本と異なり、契約という観念が日常に浸透しています。多くの州には契約締結の有無を規定する詐欺防止法(statute of frauds)と呼ばれる法律が存在します。ニューヨーク州も例外ではありません。通常詐欺防止法の下、約束事は具体的内容が契約事項として当事者に認識され、書面にて記され、当事者の直筆での署名が存在し初めて契約として成立するとみなされます。この詐欺防止法ですが、最近では必要条件である「書面」および「直筆での署名」の解釈が“現代化”しています。
最近ではいろいろな交渉事が電子メールにより行われますが、元来電子メールによる当事者のやり取りはその内容が契約書として別途記され、直筆の署名が存在しない限り、契約として成立しないとみなされてきました。しかし、州の立法機関、裁判所の解釈も時代とともに現代化し、最近ではニューヨークを含む多くの州で電子メールでの交渉事項がそのまま契約として成立するとみなされる場合があります。つまり元来契約締結に必要である、書面(紙)および「直筆」での署名が必要なくなったということです。
詐欺防止法の解釈の現代化を象徴する最近の判例として、ある商業物件の所有者の代理人と購入希望者の電子メールの内容が契約成立の証拠として裁判所に認められています。裁判所の解釈としては、正式な契約書および直筆の署名は存在しないが、電子メールでのやり取りは当事者の契約締結への意思、契約内容を十分証しており、契約として成立し、よって当事者はそれらの契約内容を遂行する義務が生じるというものです。判例の適用は各案件の事実背景に左右されますが、この判例は契約交渉への警告を意味します。
不動産物件取引の交渉過程において当事者の電子メールによる「物件A、現金取引、20億、ローンなし、現状渡し、2カ月以内のクロージング」という提示に対する「You got a deal.」等の返答が提示内容の受諾、よって契約締結と判断される可能性が出てきます。一旦契約が成立した場合、その契約内容の不履行は契約違反となり、契約履行強制を求める民事訴訟へ発展します。
そのため、予想だにしない事態を避けるためにも、当事者は電子メールによる交渉過程において「このコミュニケーションはあくまで交渉目的のみであり、契約締結を意図するものではない」等の契約締結への当事者の認識・意思を示す表明の挿入が重要となります。
(弁護士 礒合俊典)

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(お断り) 本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、法律アドバイスとして利用されるためのものではありません。法的アドバイスが必要な方は各法律事務所へ直接ご相談されることをお勧めします。
(次回は10月第3週号掲載)


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