〈コラム〉追突車両の損害賠償責任

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礒合法律事務所「法律相談室」

ニューヨーク州では判例法に基づき(信号待ち等で)一時停止中の車両、又は停止目的で減速走行をしている車両に「後面」衝突した場合、追突した車両に過失があると見なされ、その運転手に損害賠償責任が発生します。この追突車両への裁判所による一方的な損害賠償責任の強制を回避するためには、追突者は衝突の際に自身の過失は無かったという無過失を証明する必要があります。ただし「前走車が突然急ブレーキをかけたので、停止できず、追突した」という主張は自身の無過失の証明の根拠としては法的に認められません。つまり損害賠償責任を避けるための理由にはなりません。
ニューヨーク州では道路交通法により、運転手は前方車両と十分な車間距離をとることが義務付けられています。十分な車間距離の維持により、後走車はいつ何時でも前走車の急ブレーキ等の非常事態に対処することが可能という法的前提が存在します。このため前走車両の急ブレーキを理由とした主張は自身の無過失の直接的な証明とは見なされません。
この追突車両に厳しい損害賠償責任の強制ですが、最近では十分な無過失の証明が可能な場合ではなくとも、「衝突された車両が追突発生時にダブルパーキングをしていた場合」、賠償責任は追突者へ一方的に発生すべきではないという法的な見方を示す判例もあります。その根拠は「交通量、交通事情が尋常ではないニューヨーク市でのダブルパーキングをする場合、後方からの衝突事故に発展する可能性があるということは容易に想像でき、よって(裁判所ではなく)陪審員により停止車両の過失の有無の判断がされるべきである」というものです。
この見方が今後絶対的な判例法として成立した場合、ダブルパーキングの定義の明瞭化の必要性は言うまでもなく、信号直前で異常な急ブレーキを掛けた車両に突っ込んだ追突車両には全損害賠償責任が発生するが、ハザードランプを点灯させ駐車場所が空くのを待っている車両へ後面衝突した場合には追突車には全く賠償責任は発生しない、という今一しっくりこない事態に発展する可能性があります。(弁護士 礒合俊典)

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(お断り) 本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、法律アドバイスとして利用されるためのものではありません。法的アドバイスが必要な方は各法律事務所へ直接ご相談されることをお勧めします。
(次回は6月第3週号掲載)
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