ミュージカル「TRIP OF LOVE」総合プロデューサー 出口最一さんにインタビュー

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日本人による作品でブロードウェイに挑む

 

出口最一さん

日本人プロデューサーによるオフ・ブロードウェイ・ミュージカル「TRIP OF LOVE」が上演中だ。

構想約17年、衣装500着、総合制作費1400万ドルをかけ、ブロードウェイの一流制作スタッフと作り上げた壮大なショー。その総合プロデューサーを務める出口最一さんに作品制作までの道のりと公演にかける思いなどを伺った。(舞台写真は全て2008年大阪公演時(©James Walski))

舞台写真は全て2008年大阪公演時(©James Walski)

構想約17年、衣装500着、総合制作費1400万ドル
の壮大なショーへの思い

出口さんが総合プロデューサーとして行うことは幅広い。立ち上げから、プロダクションチームを作って演出・振付担当のジェームス・ウォルスキーさんとアーティストたちをつないだり、各種契約や資金集め、スケジュール管理など、スタッフやダンサーたちの全てをバックアップする。

歌謡バラエティー番組のような作品を
ミュージカルで作りたい

この企画の案が最初に上がったのは1997年に遡(さかのぼ)る。演出家のウォルスキーさんと話し、生放送でカテゴリーの違うさまざまな曲を演奏する歌謡バラエティー番組のような作品をミュージカルで作りたいと考えたことから始まった。

そこから楽曲を選ぶ作業が始まり、著作権の問題などをクリアしながら「できる」と確信したのは、その4〜5年後のことだ。そこから一直線で走り続けてきた。

60年代の曲にこだわった28曲

TRIP OF LOVE(©James Walski)

公演で歌われる28曲は60年代の曲にこだわり、それをストーリーとして繋げていく。ところが60年代の曲や時代背景を勉強していくと、あまりにも内容が深く、ただ音楽を繋げていくだけでは、曲と舞台のスケール感が合わないと感じてくる。

そこで、30年代のミュージカル「ジーグフェルド・フォーリーズ」と呼ばれるような、スペクタクル性を重視したレビューの要素を取り入れていくことに。舞台装置として豪華な衣装を見せていくのだ。そこまで膨らませるには資金がかかるが決断。

トニー賞受賞の衣装デザイナー、グレッグ・バーンさんに声をかけた。また大阪公演では叶(かな)わなかったトニー賞受賞者でTheater Hall of Fameメンバーでもあるロビン・ワグナーさんの舞台美術も同公演では実現される。

トライアウトは大阪で

2008年にようやく大阪での「トライアウト(試験興行)」が行われた。通常ブロードウェイ・ミュージカルのトライアウトは米国の地方都市で行われるが、あえてその場所に「大阪」を選んだのは、大阪の人々の舞台に対する厳しさが、ニューヨークのそれと通ずるものがあるからだった。

つまらなかったら即帰ってしまう大阪の人々が、トライアウトで公演を何度も繰り返し観にきたと知った。そして上演後に観客に配ったアンケート用紙の裏に激励のコメントがあふれた時、次への原動力が湧き上がるのを感じたという。

とにかく人々に見せることが大切

そしていよいよニューヨークでのデビューとなるが、今度は劇場が取れないという困難にぶつかる。ブロードウェイは現在、作品の「バブル」時代と言われ、あまりに作品が多く順番を待っても劇場が一向に空かない。待ち続けて4年、5年と時が過ぎ、このまま世の中に出るのを見逃すよりはと、オフ・ブロードウェイで上演させることを決意した。

トニー賞などにこだわる自分の「エゴ」は捨て、とにかく人々に見せることが大切だと思った。そしてオフとしては大規模な劇場が決まった。

演技・歌・踊りに装置と衣装を一気に見せる

TRIP OF LOVE(©James Walski)

こうして構想約17年を経てニューヨークでの上演が実現した「TRIP OF LOVE」。出口さんが話す作品の魅力は、まず「演技・歌・踊りに装置と衣装を一気に見せる贅沢(ぜいたく)な作り」だ。

ミュージカルは歌・話・歌・話と続くのが普通だが、同作品ではセリフは一切なし。ビジュアルはダンスを中心に広がるが、耳は音楽を聴き続けている。決められたストーリーを追うのではなく、ダンスや音楽を楽しんでいたのに、終わると夢物語が頭に残る。そして豪華でスペクタクルな舞台美術と500着にも及ぶ衣装は1曲で4回早変わりする場面もある。英語が分からなくても十分楽しめるのだ。
もう一つは、60年代にこだわった選曲。懐かしさとともに、この時代の曲が持つ歌詞とメロディーは、最近のリズム重視のものと違い、生き生きとしている。さらに詩も愛と平和というメッセージがあり、どのように世の中を変えたかという社会的な意味も含んでいる。

クールジャパン、ミュージカルで

大阪の小さな稽古場で振付を考えるところから始まり、トライアウト公演を土台にして、米国に持ち込み3カ月かけてオーディションをした選(え)りすぐりのキャストで作り上げた同作を、出口さんは「日本人によって作られた作品です」と強調する。
今回の公演により「日本からどれだけのものを世界に持っていけるのかということを、一つの才能と技術のチャレンジとしてモデルケースを作れたら」と話す。世界の中心で日本の作品を認められた時に、日本は「ハード」だけでなく「ソフト」でも勝負できるのだということを証明できる。それをミュージカルで実現させたい。ミュージカルはニューヨークやロンドン、オーストラリア、カナダなどで作られたものが世界に広がる。ニューヨークはそれら作品の「ソフト」が集まる見本市と言える。一つソフトを出すと、そこから世界に産業として広げることができるのだ。「クールジャパンという言葉を、ソフトという知的産業でも確立させるという挑戦がしたい」。プロデューサーとしてだけなく日本人としての挑戦となるのだ。

楽しいパーティーに参加する
ワクワク感で

メディア向けドレスリハーサルで、作品にかける思いを取材陣に話す出口最一さん=9月24日、ニューヨーク(撮影:吉田)

メディア向けドレスリハーサルで、作品にかける思いを取材陣に話す出口最一さん=9月24日、ニューヨーク(撮影:吉田)

最後に、これから同作を観る人への出口さんのメッセージを頂いた。
「お芝居を鑑賞するというよりも、遊びに来る感覚で来てください。楽しいパーティーに参加するような、ワクワク感を持って来てもらえればと思います」

◇ ◇ ◇

 出口最一(でぐち・まこと)
「TRIP OF LOVE」総合プロデューサー。
奈良県出身。「劇団四季」で俳優として活動後、1987年ニューヨークに渡り、「Circle Repertory Company」に入団。制作補佐、演出助手を経て、プロデューサーとして、オフ・ブロードウェイの「BLUE MAN GROUP:TUBES」(OBIE賞/Drama Desk賞/Lucille Lortel賞)を制作し、世界中で大成功を収める。個人に対し、ニューヨークの商業演劇協会賞を日本人で初めて受賞。第一回商業演劇協会賞、一戸小枝子賞を受賞。︎集英社「imidas」で「特集 21世紀をつくるキーパーソン」に選出。

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●日程 作品上演中(無期限)
※水、土曜日は昼夜2回公演、月曜日休
●会場    ステージ42(旧ザ・リトル・シューバート・シアター)
422 W 42nd St. New York, NY 10036
●情報    ウェブサイトフェイスブック
●チケット    Telecharge (発売中)、電話:212-239-6200、ウェブサイト
●チケット料金
本公演:A席109ドル B席79ドル(〜17日まで:A席99ドル B席69ドル)
(2015年10月17日号掲載)

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