〈インタビュー〉八木景子監督「在外邦人も一緒にスピークアウトしていただけたら」

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「ビハインド・ザ・コーヴ」
NY国際映画製作者映画祭で審査員特別賞を受賞

本紙のインタビューに答える八木景子監督=ニューヨーク

本紙のインタビューに答える八木景子監督=ニューヨーク

5月25日から29日まで行われた「ニューヨーク国際映画製作者映画祭(iffny.com)」で、捕鯨問題を取り上げた映画「ビハインド・ザ・コーヴ(Behind the Cove)」が審査員特別賞(FESTIVAL EXCELLENCE AWARDS)を受賞した。

映画「ビハインド・ザ・コーヴ(Behind the Cove)」のポスター

映画「ビハインド・ザ・コーヴ(Behind the Cove)」のポスター

同作品は、和歌山県太地町で行われる捕鯨を批判し2010年にアカデミー賞を受賞した映画「ザ・コーヴ」に対し異議を唱えた作品。捕鯨問題で対立する両サイドを捉えた作品として日本から初めて発表された。15年、モントリオール世界映画祭に選出。17年にはアカデミー賞の対象となり、審査員に「ザ・コーヴ」受賞後の太地町の被害状況を映像で伝えることに成功した。また、世界で最もユーザー数を誇る動画配信大手ネットフリックス社が多様な言語に翻訳し、世界配信するというのもの日本のドキュメンタリー映画としては、非常に稀なケースでもある。これまでは、多くの企業が捕鯨問題を危険視し避け続け世論に伝わることがなかったが、世界配信により伝わる手段が初めてできた。

映画祭のためニューヨークに訪れた八木景子監督。モントリオール映画祭後、世界中のメディアが本作を取り上げ、反捕鯨団体の幹部から連絡を取り合う機会ができたという。監督は個人で監督、プロデューサー、編集、宣伝、配給まで全てを担い、しかも初の映画製作。「ザ・コーヴ」主演のリック・オバリ氏や監督のルイ・シホヨス氏は、ホームビデオを片手にする女性の八木監督には気を許したのか、多くを語った。一方、個人の八木監督に対立するのは組織。シーシェパード創立者のポール・ワトソン氏から批難され、ハッカー集団「アノニマス」に、財務省と同レベルで狙われる。

八木監督は、米大手映画配給会社の日本支社に勤めたが、閉鎖モードになり退社直後に東日本大震災が起き、世の中は就活どころでなくなった。

40代半ば、自分の存在する価値がない、と自己否定にさいなまれ、ついには「あの世」に行くことまで考えたが、8歳の時に他界した母が脳裏に浮かび「何か社会に貢献してからでないと、こっちへ来てはいけません」と仁王立ちしているのが見え、踏み切れずにいたという。「旅行しても楽しく感じられなかった。この退職金を使って何か貢献しよう」と思い直した。

その後、14年に日本が反捕鯨国のオーストラリアに敗訴した事件に疑問を感じ、理由を探るうちに太地町にたどり着く。小さな田舎町に騒然と群がる外国人の横暴さを見て憤りという感情が体の内側から湧いてきていた。捕鯨関係者からは、映画を作る前、「殺されるかもしれない」、と忠告を受けていたという。覚悟があるかと聞かれ、「はい」と答えたという。「(この実態を)必ず世界に伝える」と決心。太地町には4カ月間滞在した。

この映画を単なる捕鯨問題ではなく、歴史認識や国際会議、条約、人種・宗教などの現在起きているさまざまな国際問題までも含む、と八木監督。観客には「プロパガンダ映像によるフェイクニュースにだまされずに自分の目で違うサイドを想像してほしい」と願う。

世界でも多様化を受け入れやすく、国連があるニューヨークは映画を上映する街として特別だという。「海外に住む日本人の方も、一緒にスピークアウトしていただけたら」と話す。

【映画の公式サイト】http://behindthecove.com

映画祭の初日にレッドカーペットで取材をうける八木監督

映画祭の初日にレッドカーペットで取材をうける八木監督

(2018年6月23日号掲載)

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