〈コラム〉「そうえん」オーナー 山口 政昭「医食同源」

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マクロビオティック・レストラン(55)

あんなに早く亡くなると知っていたら、訊いておきたいことはいくらでもありました。たとえば、「そうえん」という名前。どういう意味だと、よく客に訊かれるのですが知っているものがだれもいず、困りました。
漢字では「蒼宴」と書くらしい。らしい、というのは地下でほこりだらけになっていた看板に、「蒼宴」と書かれていたのを私が憶えていたからです。お坊さんにつけてもらったらしいので深い意味があるのでしょうが、直訳したら「蒼いパーティ」になって、あまり意味をなしません。
「蒼」には「若い」という意味もあるので、あるとき問われて「若いひとたちのパーティ」と答えたら、「年寄りは駄目なのか?」と言われました。「パーティはいま始まったばかり」と答えたこともあります。“Interesting ! ” なんとなく納得した顔つきをしていました。「飲みすぎて、みんな酔っ払ってしまったんだろう」と言った客もいました。「蒼い顔をした人たちの集まり」から連想したのです。
もうひとつ訊いておきたかったのが、利益を出すためのコツです。
日本の会社でセールスをしていたころは、売り上げを増やせば増やすほど給料もそれにつれてどんどん上がっていたのですが、経費についてはあまり言われませんでした。――だが経費も大事です。経費を落とせば、落としたぶん、利益が増えるから。
「そうえん」は個人企業です。個人企業だから、売り上げも経費も利益もすべて私ひとりで向き合わなければなりません。
会社に行っていたころは売り上げだけに目を向けていればよかったのですが、「そうえん」では経費にも利益にも目を向ける必要があります。
経費を落とすために商品の質を落とすのはいやです。経費を落とせば、そのぶん利益は増えるかもしれないが客を陰で裏切ることになります。――いや、それ以上に私自身を売ったようで、いやな気持ちになるのです。
(次回は8月第4週号掲載)
〈プロフィル〉山口 政昭(やまぐち まさあき) 長崎大学経済学部卒業。「そうえん」オーナー。作家。著書に「時の歩みに錘をつけて」「アメリカの空」など。1971年に渡米。バスボーイ、皿洗いなどをしながら世界80カ国を放浪。

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