〈コラム〉ある日突然それは起こる

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倫理研究所理事長・丸山敏秋「風のゆくえ」 第43回

2011年3月に発生した東日本大震災は、原発事故を除いても、まれに見る大規模な災害であった。今更ながら驚くのは、あれほどの大地震を、ほとんどまったく予知できなかったことである。
地震大国の日本では、年間に膨大な予算が組まれ、地震学者が研究をつづけてきた。そして「3・11」のあとになって、日本地震学会はこれまでの成果を公表した。驚くなかれ、「大地震は予知できないことがわかった」という成果(?)だったのである。呆れてしまうが、いかに自然科学が発達しても、人力では太刀打ちできない領域は多いということだ。
天気予報の精度は、ひと昔前よりは確かに上がった。けれどもしばしば大きくハズレる。ことに近年の世界の気象は異変つづきで、日本の天候も荒々しさが感じられる。「例年になく」「観測史上はじめて」という言葉を、何度耳にしたことか。
今年も雨の降り方が尋常ではなく、各地がゲリラ豪雨に襲われた。6月24日には、拙宅にも近い東京都内で、突然に雹が降った。直径1〜3センチの氷の塊が、わずか30分で1メートル近くも積もった所がある。そこに住む友人の話では、駐車場のプラスチックの屋根は砕かれ、自転車のサドルにまで雹が突き刺さっていたという。怪我人が出なかったことが不思議なほどであった。
9月27日の御嶽山の噴火も、まったく予知できなかった。噴火の直前まで、警戒レベルの設定は平常とされる「1」である。登山客は無警戒の状態で被災し、戦後最悪の死者数となってしまった。35年前の水蒸気爆発も、まったく突然に起きたのだという。
木曽のナー 中乗りさん
木曽の御岳さんは ナンジャラホーイ
夏でも寒い ヨイヨイヨイ
木曽節でこう唄われる御嶽山は、神聖な信仰の山であり、雄大な山容が人々から畏れ親しまれてきた。筆者はふもとの王滝村に、何度か訪ねたことがある。そこには「新滝」という40メートルほどの直下型の美しい滝があり、そこに入って「滝行」をするためだった。
初めて訪れたのは28年前の春3月。下界は春爛漫なのに、水温は3度と、身を切るような冷たさだった。「夏でも寒い」のがよくわかる。「滝行」のあとは、中腹あたりまで登り、御嶽神社を拝した。親しみあるあの名山で、大勢の犠牲者が出たとは、まったく信じられない。御嶽山は富士山に次いで標高が高い火山である。はたして富士山は大丈夫だろうかとも思ってしまう。
世の中、何が起こるかわからない。ある日突然、それはやってくる。慶事ならばよいが、突然の凶事は防ぎようがない。平素から備えを万全にして、受けて立つしかないであろう。
事は自然災害ばかりではない。株価の暴落も、交通事故も、噴火のごとき人の怒りを買うことも、ある日突然に起こる。ささいな火種から大戦争が勃発することも、歴史は教えている。われわれは今、荒々しい大変動の時代を生きているのだという自覚を、日々心に刻み込んでいきたい。
(次回は11月第2週号掲載)maruyama
〈プロフィル〉 丸山敏秋(まるやま・としあき)
 1953年、東京都に生まれる。筑波大学大学院哲学思想研究科修了(文学博士)。社団法人倫理研究所理事長。著書に『「いのち」とつながる喜び』(講談社)、『今日もきっといいことがある』(新世書房)など多数。

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