〈コラム〉工事現場での事故への損害賠償責任

0

礒合法律事務所「法律相談室」

ニューヨーク州では制定法に基づき特定の建物を除き、不動産物件の所有者および所有者の代理人(通常はゼネコンと呼ばれる建設総合請負者)(以下、集合的に「責任者」)には工事現場の事故に派生する下請業者(サブコン)等の建築作業員(以下、集合的に「作業員」)への人身障害への補償責任が義務付けられています。
労働法に基づき責任者へ損害賠償を求める場合通常は3つの法的主張が可能です。1つ目は、一般過失(negligence)に基づく主張です。この場合作業中に怪我を負った原告は事故発生時に「責任者が現場に指揮を取っており、(事故につながった)危険な状況・状態の知識があった」という立証を行う必要があります。
2つ目の法的主張は、実務規範(Industrial Code)の違反に基づく主張です。この場合原告は「労働局により規定された実務規範の特定事項への違反が現場に存在しており、その結果人身障害が発生した」という主張を行います。ニューヨーク市では安全管理のための建設作業現場における実務規範が存在します。規定事項は様々ですが、基本的には現場で働く作業員の安全確保のために「特定の高さ以上の足場には特定の安全用手すりの設置義務」等の責任者が守るべき具体的事項が明記されています。原告は漠然と現場が危険な状況であったと主張するのではなく具体的な実務規範の規定内容の違反が存在したという立証義務があります。また実務規範内に規定された「修理、管理、塗料使用中」等の特定実務の遂行中における事故の発生の立証も必要です。1つ目の法的根拠と異なり、責任者の危険状況の知識の有無は関係ありません。
3つ目の法的主張は、安全規範(Statutes)の違反に基づくもので責任者に対し最も厳し法的根拠とされています。この主張においては、労働法に規定された「足場、梯子、安全ベルトの設置」等を義務付けた安全規範事項の違反が存在した場合、その違反事実のみで責任者には絶対責任(strict liability)が発生します。2つ目の主張と異なり、原告は特定規定事項の違反の存在及びその違反に起因する人身障害の発生事実と同時に、発生した事故が「重力(gravity)」に関連する事実を立証する必要があります。つまり漠然とした工事現場での怪我の発生の主張は十分ではなく、安全規定事項に反し安全装置が設置されていない足場からの「落下」に伴う怪我等の具合的立証が必要です。また事故発生時の遂行中の作業が法規された「修復、設置、修理中」等の特定業務であったと立証する必要もあります。
3つ目の法的根拠においては原告の過失が考慮されないため、作業員に大きな過失があった場合でも、安全規範事項の違反及び法規作業遂行中に発生した事故という事実のみで責任者には全損害賠償責任が発生します。なお前記の労働法に基づく責任者への損害補償義務は法規された工事作業員へのみ該当し、工事現場へ勝手に足を踏み入れ、結果的に怪我をした観光客やその他一般歩行人へは発生しません。 (弁護士 礒合俊典)
◇ ◇ ◇

(お断り) 本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、法律アドバイスとして利用されるためのものではありません。法的アドバイスが必要な方は各法律事務所へ直接ご相談されることをお勧めします。
(次回は2月第3週号掲載)

〈情報〉礒合法律事務所 160 Broadway, Suite 500 New York, NY 10038
Tel:212-991-8356 E-mail:info@isoailaw.com

過去の一覧

Share.