〈コラム〉さくらライフセイブアソシエイツ代表・清水直子「米国最先端臨床現場から」海外治療コンサルティングリポート 第31回

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着床前診断31~一般的な着床前診断に関するよくある疑問(1)~

着床前診断は利益とリスクを納得してから受ける

前回まで30回に及び、臨床・治療見地から着床前診断について徹底的に説明してきました。今回からは、着床前診断に関するよくある一般的な疑問について解説をし、着床前診断に関するコラムを締めくくりたいと思います。

着床前診断は有益か

単一遺伝子疾患(シングル遺伝子疾患:Single Gene Disorders)を検査する場合は間違いなく有益です。着床前診断を行う以外には、受精卵が遺伝疾患に罹患しているかどうかを判別する方法はなく、妊娠以前に子供に遺伝することを防ぐことを試みることは不可能であるためです。しかし、23対の染色体の異数性を診断する場合は、本来は妊娠できない、もしくは健全な妊娠に適さない受精卵による移植を避けることができることは確かですが、最近の臨床では胚盤胞まで受精卵の培養を継続し続ける方法が多く取られているため、それまで受精卵が体外で生き、分割を続けることが出来るか、という挑戦があります。実際は、正常であっても、生体検査を行うために胚盤胞まで培養しないといけないため、生きられないケースもあるとすれば、生体検査なしに早めに受精卵3日目で移植してあげる方が良いことになります。これは、体外である検査場の培養液で育てるより、母親の体内(子宮)の方が、受精卵にとって優しい環境であるためです。着床前診断を行うことにより無駄な移植を避けられる、ということが正しい反面、着床前診断を行うために胚盤胞まで育てることにより良い受精卵が死んでしまうという抵触があります。
上記の理由から移植するための正常な受精卵が診断後、残らない可能性があることを着床前診断を希望する患者は理解している必要があります。
そのため、20代の母親たち、もしくは20代の卵子ドナーを使った体外受精サイクルには着床前診断は必要ないのではないか、つまり体外受精サイクルの成功率を減少させる可能性があるのではないか、と議論するドクターも多くいます。とは言え、20代でもダウン症の子供を出産することもあり得ますので、各患者が利益とリスクを納得して決定する必要がある、というのが結論と言えましょう。
(次回は7月第1週号掲載)

sakura life profile Photo〈プロフィル〉清水直子(しみず なおこ) 学習院大学法学部卒業、コロンビア大学で数学を学び、ニューヨーク大学スターンスクールオブビジネスでMBAを取得。マウントサイナイ医科大学短期医学スクール修了。メリルリンチの株式部で活躍し、2003年さくらライフセイブ・アソシエイツを設立。
【ウェブ】www.sakuralifesave.com/

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