〈コラム〉人間の変容

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倫理研究所理事​長・丸山敏秋「風のゆくえ」 第57回

日本では「戦後70年」と言われつづけてきた今年も、もうすぐ終わる。この70年間、世界はアメリカを中心に動いてきた。世界の経済や科学技術を牽引してきたのは、間違いなくアメリカである。日本も大戦争の恩讐を超えて、かつての敵国に追従してきた。

しかし当のアメリカでは、すでに1960年代からヒッピーに始まるカウンターカルチャーが芽生え、世界的な広がりを見て今日に至っている。それは18世紀のヨーロッパに生まれた近代文明に、アンチないし超克を突きつけるものでもあった。

科学的合理主義では解明できない領域があるにちがいない。お金では買えないものがないはずはない…。地球環境の汚染や破壊の実態が伝えられると、危機感はいよいよ高まり、ポスト近代を求める動きが加速していく。このままでは人間が壊れてしまうという危機感を、無意識のうちにも共有する人々が増大していった。

だからといって、科学のパラダイム・シフトはまだ起きていない。グローバル化した経済至上主義が克服されてもいない。すべてはこれからの課題であり、きわめて難題である。あらゆる営みは人間によるがゆえに、「人間の変革」こそが難題克服の鍵になるだろう。

「人間の変革」とは大袈裟な言い方かもしれないが、目から1枚の鱗が落ちただけでも、それがきっかけで、人はずいぶん変わる。新しい認識が生まれ、従来とは違った価値観を持つようになれば、別人にもなる。もちろんその変容は、健全な成長でなければならない。

例を挙げよう。企業は製品やサービスを売っている。性能やデザインがどうだとか、サービスの質が高いか低いかなどが、いつも気にされ論じられる。それら目に見える面の裏側には、目に見えない面があるのだが、それが気にされることはあまりない。

だが、よく考えてみればわかることだが、企業は製品やサービスを売っていながら、本質的には「信用」を売っているのである。いくら性能が良くても、すぐに壊れてしまう製品では話にならない。世の中には見かけ倒しのサービスも多い。そんな製品やサービスには買い手がつかない。目に見えない「信用」に裏打ちされているからこそ、売りものは売れるのである。

当たり前の話かもしれない。だが、何が信用を生むのか?

ひと口に信用といっても、さまざまな目に見えない要素から成り立っている。経営者の使命感や情熱や愛情、従業員の誠意や向上心や満足感…。そうした精神性に基づく行為が、企業の安定した継続力をはぐくみ、顧客の信用を勝ち取る。売れつづければ、ますます信用が高まる。

この当たり前のことに、磨きをかける必要があろう。目に見える面だけでなく、見えない面を目を凝らして見つめる。改善点を発見したら、すぐに実行する。それができる企業は成長するし、成長している企業はそれができている。

物事の本質は見えないところにあると悟れば、もう以前とは違った生き方の姿勢が生まれる。そのように変容した人が、未来を創造するに違いない。

(次回は1月第2週号掲載)

丸山敏秋

〈プロフィル〉 丸山敏秋(まるやま・としあき) 1953年、東京都に生まれる。筑波大学大学院哲学思想研究科修了(文学博士)。社団法人倫理研究所理事長。著書に『「いのち」とつながる喜び』(講談社)、『「いのち」の輝き』(新世書房)など多数。

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