〈コラム〉大震災、あれから……

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丸山敏秋「風のゆくえ」第12回

東日本大震災から1年が過ぎようとしている。昨年は地震による大災害だけでなく、秋口には台風によって100名近い犠牲者も出た。日本人が大昔から怖れてきた地震と台風のダブルパンチに見舞われたのだ。
それにしても自分たちが生きている間に、あれほどの大災害が起きたとはいまだに信じられない。津波による東北3県の被災地で、瓦礫はかなり片付けられたものの、復興までには相当な年月を要する。復興財源は程よく廻らず、金額も不足していると聞く。茨城県や千葉県の液状化地帯も、完全復旧するのはまだまだ先だ。復興庁が発足したのはつい先日、震災から11カ月も経てからだった。
原発震災に苦しむ福島県では人口流出が止まらない。山間部の木々に付着したセシウムなどの放射性物質が、雪融けと共に地下にしみ込むと怖れられている。内部被曝により体に異常が出るのか否か、専門家もわからず、住民の不安は尽きない。除染には膨大な労力と費用がかかる。
東日本では地震が頻発している。元日には関東地方で震度4の揺れが。あちこちを震源に、小さな地震が毎日のように起きている。東大地震研究所の教授が「4年以内に70%の確率で首都直下型の地震が…」と発表したため、テレビでも週刊紙でも次なる地震を警告する報道が目白押しとなった。日本列島は「地震の巣」の中に位置するので、いつどこで連動した大地震が発生してもおかしくない。なのに周囲に尋ねてみると、最低でも1週間分の水や食料や燃料を備蓄している人は少ない。「自分だけは大丈夫」と思っているのだろうか。各家庭での備えは変化の激しい時代を生きる抜くためのモラルでありマナーであるとの自覚があまりにも乏しい。
「3・11」からしばらくの間、日本中は愛に包まれた。大半の国民が救援のために心を砕き、自分に出来ることを実行した。被災地の人々の秩序正しい利他的な行動が、世界中から絶賛された。大震災は薄れかけていた家族の絆を再認識させ、「無縁社会」という不気味な言葉を一気に吹き飛ばした。
大きな災害が起こると、いたわり合い、助け合って乗り越えようとする人々の「ユートピア」が現れる。サンフランシスコ在住の作家レベッカ・ソルニットがその情景を克明に描いた(『災害ユートピア』原著は2009年刊)。
しかし、熱はやがて冷める。元の平常時における利己的な態度が表に出るようになる。過去に災害が発生したときも、その繰り返しだった。
だがそこに、今後の目標を見出したい。日常生活で多少なりともエゴを抑制し、少しでも「ユートピア」に近づけるよう努めるのだ。新しいエネルギー開発と共に、人類が進化し発展していく大きな目標を「3・11」は与えてくれたと信じている。
(次回は4月14日号掲載)
maruyama 〈プロフィル〉 丸山敏秋(まるやま・としあき) 1953年、東京都に生まれる。筑波大学大学院哲学思想研究科修了(文学博士)。社団法人倫理研究所理事長。著書に『「いのち」とつながる喜び』(講談社)、『今日もきっといいことがある』(新世書房)など多数。

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