〈コラム〉フリーキャッシュフロー 企業の資金繰りを見るのに役に立つ

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「永野・森田公認会計士事務所 日下武」ビジネスのツボ 第19回

ニュースで企業の合併や買収の話をよく見ますが、すごい金額です。それでは、どうやって価値をつけているのでしょうか。実務的にはとても複雑で、いろいろなアプローチがありますが、今回は「フリーキャッシュフロー」という考え方を紹介させていただきます。
これは、簡単に言うと自由に使えるお金をいくら作り出せる企業であるかで価値評価をする考え方です。損益計算書の税引き後利益を見ればすぐわかるだろうと思う人もいるかもしれませんが、気をつけなければいけないのは、税引き後利益とフリーキャッシュフローの金額とは一致しないということです。企業価値評価を誤ると大変なことになる場合もあります。
A社は販路を広げるために現地卸業者の買収を考えていました。そうするとちょうど良さそうな会社が見つかりました。損益計算書を見せてもらうと前年度から200%も売り上げを伸ばし、税引き後利益もかなりありました。理由を聞くと、大手チェーンを顧客として獲得したようで、売り上げが急上昇したようです。A社は持っている資金をぎりぎりまで使って、その会社を買いました。しかし、すぐに会社は倒産してしまいました。
実は、キャッシュフローに問題がありました。その会社は獲得するために大手チェーンに売掛金の回収タームを長く与えてしまい、資金繰りが悪化して、買掛金が払えなくなっていたのです。A社は損益計算書上の利益に期待をして、会社買収のためにほとんどの資金を使ってしまったので、売掛金回収より早く期限が来てしまった買掛金の支払い義務を果たせませんでした。さらに大手チェーンを顧客にしたことで、在庫をたくさん抱える必要があり、倉庫も広くし、固定費も上がってしまっていたため、手元に現金はありませんでした。
損益計算書上は黒字であるのに資金繰りが悪く倒産することを文字通り、黒字倒産といいます。それでは、企業の資金繰りを見るにはどのようなものが役に立つでしょうか。それにはキャッシュフロー計算書というものがあります。これは、キャッシュの流れに着目して作成されるもので、企業の財務状況の実態がわかります。今回はフリーキャッシュフローについて紹介しましたが、企業価値評価には他にもアプローチが存在し、さらに財務諸表の数字が正当なものかを調査する作業(デューデリジェンス)があり、かなり複雑です。いずれにしても大きな取り引きですので、目線を変えていろいろな角度から分析することが大切です。
(次回は9月第2週号掲載)

(「WEEKLY Biz」2013年8月10日号掲載)
takeshi%20001[1]〈プロフィル〉 日下 武(くさか たけし) 永野・森田公認会計士事務所NJ拠点マネージャー。大手日系食品商社での営業経験を活かし、顧客の立場になって、全体的なビジネス、会計、税務相談を受けている。メーカーからレストラン、リテーラーまで、幅広く顧客を持つ。【ウェブ】www.nagano-morita.com/ Tel:201-363-0050 E-mail:tkusaka@nagano-morita.com 2125 Center Ave., Suite 104, Fort Lee NJ
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