集夢計画2「荒海を航行中」

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アーティスト・林世宝「チリも積もれば芸術に」第4回

ニューヨーク大学のアートプログラムの修了式で陳湘琪(中央)と筆者(左)

ニューヨーク大学のアートプログラムの修了式で陳湘琪(中央)と筆者(左)

2009年8月8日、台風8号が台湾を襲いました。この死者600人を超す大水害は、台湾では「八八水災」と呼ばれ、過去50年で最悪の災害でした。縁起が良いはずの8並びの日に起こった台風は、台湾だけでなく、私の企画にも影響を及ぼしたのです。

夢を集めて映画を作る「集夢計画」の企画に賛同し、村を挙げてバックアップしようと申し出てくれた故郷の村が台風で大きな被害を受け、映画どころではなくなってしまったのです。具体的な話を進めるため、訪台の日程まで決まっていたのに、あきらめるより仕方ありませんでした。

そんな時、兵藤ゆきさんがニューヨークを訪れ、映画にまつわるいろいろな経験やアドバイスを話してくれました。「映画は大きなビジネス。アートの範囲なら林さんとボランティアだけでもできたけれど、映画制作はビジネスと考えて企業家や投資家にも呼びかけた方がいい。アカデミー賞をとった『おくりびと』は完成まで17年もかかったのだから、林さんもあきらめないで頑張って」と励まされました。

兵藤さんと入れ替わるようにやって来たのは、昨年の東京映画祭の審査員でもあった台湾の女優、陳湘琪(チン・シャンチー)。昔からの友人で、映画の内情に詳しい彼女からは、「兵藤さんはプロの芸能人。仕事として一緒にやっていくことが応援に応えることになるのでは。もっと映画を勉強してプロといえる作品を作ってほしい」と言われました。

私はこれまでアートのプロとしていくつもの作品を手掛けました。しかし、映画に取り組んだ経験はないし、ましてやビジネスとなると別の世界の話のよう。せっかく漕ぎ出した船なので、どうにかして目的地まで皆と一緒に辿り着きたいのです。今一度、昔の知恵「天時・地利・人和」を思い起こして「集夢計画」を見直してみようと思います。

林世宝

〈プロフィル〉リン・セイホウ 1962年台湾生まれ。日本に留学中に日展、日仏現代美術展に出展し数々の賞を受賞。その後、渡米し、96年NY大学大学院修士課程を修了。NY現代美術展メディア賞、アジア傑出アーティスト賞などを受賞。世界中から素材を集める、ハート集結シリーズの代表作には「智恵の門(愛知万博)」、「ラブツリー(20万のおしゃぶり)」がある。NY在住。【フェイスブック

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