藤原竜也(1)

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舞台が自分の戦いの場所

「ガチ!」BOUT.18

先月始め、ワシントンDCのジョン・F・ケネディセンターで、主演舞台「身毒丸」(演出・蜷川幸雄)の米国公演を成功させた俳優・藤原竜也さん。 字幕なしの日本語公演だったが、カーテンコールでスタンディングオベーションを受けた。また千秋楽公演には日本から500人のファンが駆けつけるなど、日本からも注目も集める。千秋楽公演直前、楽屋でお話をうかがった。
(聞き手・高橋克明)

 

Japan! culture+hyperculture」: DCで魅せた「身毒丸」

千秋楽を控えて、今の率直な気持ちを聞かせて下さい。

藤原 まずは純粋にこの作品を再演できて嬉しいという気持ちでいっぱいです。あとは、僕がロンドンで(この作品で)デビューしたのがちょうど今から10年前だったんですね。その後、ファイナルという形をとったんですが、今回このケネディーセンターから招待されて再演という形になりました。普段観ることができないようなお客さんが観てくれるし、ここアメリカで演じる意味を考えると幸せだなと実感します。

この「身毒丸」を演るのは実に6年ぶりという事ですが。

藤原 やっぱり懐かしいです。自分はこの作品でデビューして、この作品で蜷川さんと出会えて、もしこの作品がなければ今の自分は絶対ないと思うし、この作品があって初めて芝居というものを真剣に考えるようになりましたから。やはり蜷川さんの演出は台詞も綺麗だし、舞台自体の完成度も高いですよね。今の日本人が忘れかけている時代背景なんです。だから演じていて楽しいですね、この世界観の中で演じるという事は。楽しいだけでなく、こんなに大変だったかなっていうくらい大変ですけど。(笑)

デビュー時と今回、演じていく上でご自身の中の変化はありましたか。

藤原 10年前のデビューの時は、本当に何もわからないまま演劇という世界に入りましたから。蜷川さんに言われるままというか。台詞から息継ぎ、発声や動きなど、ただ本当に言われるがままやっていました。それが今は、一直線に演じるのではなく、どこかいい意味で抜いた方がいい場所がわかってきたり、すごくシャープになりましたね。それにより作品全体が引き締まったと思えるようになってます。

日本、ロンドン、ニューヨーク、そして今回はワシントンDCと様々な場所で公演をされてきました。エリアによってのお客さんの反応の違いはありますか。

藤原 まったく違いますね。たとえばイギリスだと蜷川さんの絶対的な知名度もありますし、ニューヨークだと三島由紀夫でお客の食いつきもすごくいい。ただ、この「身毒丸」という作品は場面場面の飛躍が大きいので、日本人でも難しく感じる時もあると思うんです。特に今回は字幕もないしアメリカの方々がどこまで理解してくれるかは少し不安ではありますけどね。

男と女としてひかれ合う少年(藤原)と継母(白石加代子)を神秘的かつ官能的に描く寺山修司原作作品。当時15歳だった藤原のデビュー作

男と女としてひかれ合う少年(藤原)と継母(白石加代子)を神秘的かつ官能的に描く寺山修司原作作品。当時15歳だった藤原のデビュー作

日本の役者としてアメリカ人の観客を魅了したい、という気持ちでしょうか。

藤原 やっぱり、まだまだ日本の演劇という文化は世界に知られてないと思うんですよね。野田秀樹さんや中村勘三郎さんは(世界の)第一線で活躍されてますけど、自分としては、もっともっと世界に広く浸透させたい、そう思ってるんです。今回も3、4日でなくて可能であれば、もう少し何週間かやってみたかったくらいですね。実は個人的には特にアメリカでやる事に意識はないんです。ただ、こういう小さな空間で国境を超えてプレイする事で、この国の人達とコミュニケーションをとる事ができる。それ自体が素晴らしい事なんじゃないかなあって。その機会をくれた劇場にも感謝しなきゃだし、“つながり”が面白いですからね。だからこそ、1カ月くらいやってみたかった。

ロンドンで腰痛を抱えて演技されたりと、いろいろ大変なことも多かったと訊きますが。

藤原 当時は15歳でしたからね。サッカーしか知らない、演劇の世界も知らない人間がポンって海外の舞台に立つ機会をいただいて、無意識にも考えるものが大きかったと思います。演劇の仕事って大変だと思うんです。でもやっぱり、ケネディーセンターの初日を迎えて、久々に、舞台って本当にいいなというか、自分は好きだなあと思ったんですよね。そして(自分は)戦っているんだなぁと。これからもここ(舞台)が自分の戦いの場所であって、一番好きで、ずっとここでやってくんだろうなあ、というのを初日に感じたんです。すごくいい経験だったんですね。やっぱり最前列に外国の方が座っているとね、ちょっと違和感はあるものの、面白いです。いい緊張感が生まれますよね。

最後に読者にメッセージをお願いします。

藤原 僕の初めての海外旅行がニューヨークだったんですね。16歳くらいの時だったかな、毎日1ドルのホットドックでミュージカルをいっぱい観て。それまではミュージカルというより、芝居自体に対して感動するなんて頭になかったんですよ。ただどんなものなんだろうって覗いたのが「ジキルとハイド」で、気づいたら、ボロボロ泣いてたんですね。やっぱり本場のモノはこんなにいいんだって感動した思い出があります。だから僕にとってはニューヨークは特別な街ですね。大好きな街って書いといて下さい。(笑)

 

6年のブランクを感じさせない演技で観客を魅了した

6年のブランクを感じさせない演技で観客を魅了した

(写真はいずれもホリプロ提供)

 

藤原竜也(ふじわら たつや) 職業:俳優
1982年、埼玉生まれ。97年「身毒丸」(蜷川幸雄演出)で初舞台を踏む。以後多くの蜷川演出舞台に出演。また野田秀樹演出「オイル」、グレゴリー・ドーラン演出「ヴェニスの商人」などの舞台や、映像でも活躍しており、金子修介監督「デスノート」は大ヒットを記録した。第38回紀伊國屋演劇賞個人賞(2004年)、第3回朝日舞台芸術賞寺山修司賞(2004年)、第11回読売演劇賞優秀男優賞・杉村春子賞(2004年)など、数々の賞を受賞している。

 

〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。

 

(2008年3月2日号掲載)

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